[建設業の基礎知識]2024【3】設計希望者は必読!「設計・施工分離方式とデザインビルド方式・ECI方式」

向寒の候、11月も中旬を迎えました。次第に寒さが厳しくなってまいりましたが、建築学生の皆さまはお元気ですか?毎年、この時期から、全国で開催される卒業設計展に向けて、開催日程や大会テーマ、審査員が発表されていきます。すでに先週、エントリーを開始した大会もあるようですね。今年も全国の卒業設計展が盛況となりますよう、総合資格ナビスタッフ一同、楽しみにしています。

さて、現在、卒業設計に打ち込んでいる学部4年生や、手伝っている下級生の皆さまも、将来は設計職として活躍することを夢見ている人が多いことでしょう。

本記事では、近年採用が多くなっている「デザインビルド方式」を中心に、建築設計・施工の発注方式について解説していきます。

公共工事は、基本的に「設計・施工分離の原則」である!

日本では1959年に国土交通省事務次官通達により、公共工事の「設計・施工分離の原則」が明確化されました。設計と施工を別企業が実施することにより、価格の透明性や品質の確保、コスト管理を図ることを基本としたのです。

これは日本だけではなく、現在でも、米英を中心とした海外では「設計・施工分離の原則」が採用されています。

元来、海外の建設企業は設計を担う会社と、建設工事会社は別業態として棲み分けており、日本のような大規模総合建設業(ゼネコン)はなく、建設工事は専門工事業者が施工しているのです。土木工事では、日本でも現在、「設計・施工分離発注方式」が主軸となっています。

2010年代前半までは、学生から「公共建築の設計をしたいので、組織設計に行きたい」という希望をよく聞いていました。より詳しくいうと、「組織設計に行きたい」「アトリエ設計に行きたい」「ゼネコン設計職になりたい」これらの進路希望は、設計したい建築物によって明確にわかれていました。

近年、公共建築物の設計に組織設計事務所もアトリエ設計事務所もゼネコンも関わるようになり、設計職を目指す学生が設計事務所とゼネコンを併願するのが普通になってきたように思います。

デザインビルド方式(設計・施工一括発注方式)が増えてきた背景

デザインビルド方式が増えた要因は、たったひとつの出来事によるものではありませんが、大きな要因となったのは2013年に開催が決定した「2020年東京オリンピック」と、前年2012年に実施した「新国立競技場国際コンペ」からの経緯でした。

このコンペでは、ザハ・ハディドが設計した特徴的なデザイン案が選ばれましたが、見積りの2倍に膨れ上がった総工費などに批判が集中して、着工直前に白紙に戻されて、2015年12月に再コンペ実施となりました。再コンペでは、大成建設・梓設計・隈研吾チームによるA案が選定されましたが、2019年11月竣工までと工期が短く、デザインビルド方式で発注されることになりました。

また新国立競技場以外にも、水泳会場の「オリンピックアクアティクスセンター」、ボート・カヌー会場の「海の森水上競技場」、バレーボール会場の「有明アリーナ」の3会場がデザインビルド方式で発注されたことが話題となりました。

それぞれの経緯は、「とにかくオリンピック大会に竣工を間に合わせるため」ということです。

「設計・施工分離発注方式」と「デザインビルド方式」のメリット・デメリット比較

上図が「設計・施工分離方式」と「デザインビルド方式」の比較表となります。

「設計・施工分離方式」では、価格の透明性や品質の確保、コスト管理といったメリットのほかに、設計者が工事監理を通して、第三者的な立場で指導監督を行ない、施主に報告を行なえるメリットがあります。

デザインビルド方式は、基本設計から建設会社に任せるケースと、実施設計から建設会社に任せるケースの2種類がありますが、中心となるメリットは、下記4点になります。

デザインビルド方式のメリット

1.コスト変動リスクの低減

入札後、設計段階から実際に施工する建設会社がコスト確認をしながら進めることができるので、工事段階でコストが変動するリスクを低減できます。

2.全体工期の短縮が可能となる

建設会社が設計段階から、施工方法や仮設計画を検討して進めることができ、工事に必要な資材や建設機械などを先行発注できるため、大幅に工期が短縮できます。

3.建設会社の技術・ノウハウで品質確保ができる

建設会社が持つ高度な施工技術や豊富なノウハウを品質確保に一貫して活用できる。難しい現場条件においても、施工者の技術を最大限に活用した設計が可能となります。

4.責任の所在が明確化

設計と施工両方の責任が一つの建設会社に集約されるため、責任の所在が明確になり、迅速な問題解決を図ることができます。

デザインビルド方式のデメリット

1.工事費の妥当性を見極めることが難しい

設計・施工を一つの建設会社に一任するため、工事費の比較検証ができません。そのため、選定段階で複数の建設会社に見積を依頼して比較する必要があります。

2.発注者にチェックする知識が必要となる

発注者にも「施工者の視点に偏った設計内容になっていないか」、「コストの妥当性」「求めている品質か」などをチェックする知識が必要となります。

客観性の不足を補うためにも、コンストラクションマネジメント会社の活用が促進されており、その役割に注目が集まっています。

近年増えている「ECI方式」とは?

ECI方式(アーリー・コントラクター・インボルブメント方式)とは、建設プロジェクト発注方式の1つで、実施設計の段階からゼネコンなどの施工者が参画し、技術協力を行う方式です。

近年、公共工事で採用が進んでいる方式で、設計や施工の難易度が高いなど、発注者や設計者で仕様・施工条件の確定が難しい場合によく用いられます。

ECI方式の採用が進んだ背景として、2014年に「公共工事の品質確保の促進に関する法律(公共工事品確法)」が改正されたことが挙げられます。

ECI方式のメリットとして、施工者の技術力を設計に活かせる、設計段階から施工の事前検討が可能なため、スケジュールの短縮につながる。施工者のVE提案などにより、コストの縮減がしやすい、といった点が挙げられます。

また設計は設計事務所が行うため、設計者のデザイン力を最大限活用することができる点もメリットとなるでしょう。

 

(本記事は総合資格navi ライター kouju64が構成しました。)