
特集【7】環境政策はグリーンインフラを理解せよ!【知っておきたい建設的常識】
なぜグリーンインフラなのか?
グリーンインフラは、米国で発案された社会資本整備手法で、自然環境が有する多様な機能をインフラ整備に活用するという考え方を基本としており、近年欧米を中心に取組が進められています。
導入目的や対象は、国際的に統一されておらず、非常に幅広いのが現状です。
出所:国土交通省
上図は米国、欧州における事例ですが、それぞれの考え方は下記の通り、若干の差異があります。
出所:国土交通省
わが国では、平成27年度(2015年度)に閣議決定された国土形成計画で、「国土の適切な管理」「安全・安心で持続可能な国土」「人口減少・高齢化等に対応した持続可能な地域社会の形成」といった課題への対応の一つとして、グリーンインフラの取組を推進することが初めて盛り込まれました。
わが国では、これ以前から、従来の社会資本整備事業や土地利用の取組では、自然環境が持つ防災・減災、地域振興、環境といった各種機能を活用した取組を既に実施していました。
わが国は災害リスクが避けられず、土地利用条件が厳しい環境にあり、要素技術、空間配置、相互関係のいずれから見ても、人工構造物とグリーンインフラを切り離すことはできず、双方特性の理解の下、組み合わせて使っていくことが重要であるとされています。
下図はわが国の「グリーンインフラの考え方と事例」を示したものです。
出所:国土交通省
グリーンインフラ推進戦略の現在
令和元年(2019年)7月、「グリーンインフラ推進戦略」が公表されました。
グリーンインフラ推進戦略は、自然環境が持つ多様な機能を活用して、持続可能で魅力的な国土や地域づくりを目指す取り組みを体系的に進めるための計画です。
この戦略は、気候変動への対応やカーボンニュートラルの実現、SDGs(持続可能な開発目標)の推進など、現代社会が直面する課題に対応するために策定されています
この戦略は官民が連携して取り組むことを重視しており、国土交通省が中心となって推進されています
その後、グリーンインフラの概念が定着し、本格的な実装フェーズへ移行するとともに、ネイチャーポジティブやカーボンニュートラル・GX等の世界的潮流等を踏まえ、令和5年9月に、「グリーンインフラ推進戦略」は全面改訂されました。これが、「グリーンインフラ推進戦略2023」の策定です。
出所:国土交通省
「グリーンインフラ推進戦略2023」では、新たにグリーンインフラの目指す姿(「自然と共生する社会」)や、取組に当たっての視点を示すとともに、官と民が両輪となって、あらゆる分野・場面でグリーンインフラを普及・ビルトインすることを目指し、国土交通省の取組を総合的・体系的に位置づけました。
この戦略は、「グリーンインフラ官民連携プラットフォーム」や経済団体と連携した国民運動を展開していくものとして策定されています。
環境省が2024年5月に制定した「第六次環境基本計画」とは?
一方、環境政策は環境省でも推進をしています。平成5年(1993年)には、環境基本法が施行され、平成6年(1994年)12月に「第一次環境基本計画」が閣議決定されました。
第一次環境基本計画では、 「循環」、「共生」、「参加」及び「国際的取組」が実現される社会を構築することを長期的な目標として掲げました。
環境基本計画は、その後も更新を続け、最新は2024年5月に制定された「第六次環境基本計画」となります。
第六次環境基本計画では、第一次計画以来、30年目の節目を踏まえ、「希望が持てる30年へ」と「勝負の2030年」をスローガンに掲げ、「ウェルビーイング/高い生活の質」の実現を目指すこと、地下資源依存から地上資源基調の経済社会システムへ転換することをビジョンとして打ち出し、基盤である自然資本とそれを支える資本・システムへの大投資、「環境価値」 を活用した経済全体の高付加価値化のためにスピード感とスケール感をもって「新たな成長」を実践・実装していくことを計画しています。
第六次環境基本計画では、環境・経済・社会の統合的向上の高度化のために以下6つの重要戦略を掲げています。
1.「新たな成長」を導く持続可能な生産と消費を実現するグリーンな経済システムの構築
2.自然資本を基盤とした国土のストックとしての価値の向上
3.環境・経済・社会の統合的向上の実践・実装の場としての地域づくり
4.「ウェルビーイング/高い生活の質」を実感できる安全・安心、かつ、健康で心豊かな暮らしの実現
5.「新たな成長」を支える科学技術・イノベーションの開発・実証と社会実装
6.環境を軸とした戦略的な国際協調の推進による国益と人類の福祉への貢献
まとめ
わが国の環境政策、最上位の計画を示すのが環境省の「環境基本計画」になりますが、これに対して、国づくり、まちづくりの根幹を成すインフラの整備を具体的に進めていく、国土交通省の戦略が「グリーンインフラ推進戦略」といってよいでしょう。
グリーンインフラが目指すのは「自然と共生する社会」ですが、この戦略には世界的な潮流となる、ネイチャーポジティブ(生物多様性)やカーボンニュートラル、減災・防災やインフラ老朽化の解決、SDGsやデジタル田園都市国家構想にある、地域創生なども踏まえた貢献を果たすことが盛り込まれています。
建設業が果たすべき「グリーンインフラの意義」とは、次の通りです。
①ネイチャーポジティブ・カーボンニュートラル等への貢献
➁社会資本整備やまちづくりの質向上、機能強化
③SDGs、地方創生への貢献
最後に、建築・土木を学ぶ学生の皆さんは全国で現実に行われている様々な建設工事が、このグリーンインフラが目指す姿に合致しているかどうか、見る目を養うことも重要ではないかと感じています。
(本記事は、総合資格naviライター kouju64が構成しました。)