【建設業の基礎知識2025】特集【9】ICT施工原則化の拡大に向けた動きについて
2024年4月16日、国土交通省は「i-Construction 2.0」を策定し、2040年度までに建設現場の省人化率を3割、生産性を1.5倍とするための取組みとして、「施工のオートメーション」、「データ連携のオートメーション」、「施工管理のオートメーション」を進めていくことになりました。
「施工のオートメーション」では、①施工データの活用、➁自動施工、③遠隔施工、④新たな施工技術の4項目を柱とし、ロードマップを作成して「ICT施工」の適用を拡大していく計画を策定しています。(下図)
「ICT施工」とは、情報通信技術を活用した建設工事を意味し、担い手確保を喫緊の課題とする建設業が持続可能な発展を成すには、現場管理の効率化・生産性向上に資するICT化が不可避とされています。
2024年12月には、「情報通信技術を活用した建設工事の適正な施工を確保するための基本的な指針(通称:ICT指針)」が公表されました。その内容は下記の通りです。
2025年度から、「土工」「浚渫工(河川)」「浚渫工(港湾)」の3工種で、ICT施工原則化がスタートしています。この3工種は、2024年度においてもICT施工の実施率や実施件数が高く、国土交通省直轄工事では約9割でICT施工が実施されており、都道府県・政令市でもICT施工原則化が可能と思われる工種から適用を進めた経緯となります。
「舗装工」「地盤改良工」でICT施工原則化に向けた動きがスタート!
2025年7月、国土交通省はICT導入評議会の資料を公開し、「舗装工」「地盤改良工」でICT施工の原則化に向けた検討に着手したことを発表しました。
「舗装工」「地盤改良工」は、2026年度から発注者指定型の範囲を段階的に拡大し、2027年度以降の原則化を目指す計画で、2023年度にICT対象工事の実施率は、「舗装工」が75%、「地盤改良工」が86%と高水準であったことが背景となっています。
従来は発注規模に応じて、発注者指定型と受注者希望型で運営してきた「舗装工」は、発注者指定型を適用する施工面積や予定価格の範囲を拡大していく予定です。
従来は受注者希望型のみで運営してきた「地盤改良工」では、予定価格が一定額以上の工事に受注者指定型を適用していく方針で、両工事の発注者指定型の適用範囲など、詳細は2025年度中に決定していく方針です。
ICT施工実施による現在までの活用効果は?
2025年6月27日に開催された、「第21回 ICT導入協議会」では、ICT施工の実施状況が共有され、ICT施工の活用効果について、起工測量・設計データ作成・施工・出来形管理・検査・納品の各項目について、従来工法からの負担縮減状況をアンケート調査して集計し、ICT土工で約35%、ICT浚渫工で約45%、ICT浚渫工(港湾)で約23%、ICT舗装工で約37%の縮減効果が確認できていることを発表しました。
縮減効果は、過年度からの推移を見ると、ICT土工及びICT浚渫工(河川)においては縮減効果が約3割程度出ており、ICT舗装工においては約3.5割程度で横ばいとなっています。ICT浚渫工(港湾)では縮減効果が増加傾向で、近年2割以上の縮減効果が見られています。
2025年度以降の取組みや、新たに2026年度以降にICT施工を拡大していく工種においては、今後、ますます縮減効果が進んでいくと考えられます。
ICT施工を拡大するには、地域中小建設業への助成が不可欠
これまで順調にICT施工化が進んできたのは、工種を定めて国土交通省直轄工事に適用してきたことが理由となります。直轄工事は大規模工事が多く、大手企業中心に受発注が行われるためです。
下図は2024年度までの「直轄工事におけるICT施工の経験分析」ですが、全国大手企業となるAランクで100%、同準大手中堅のBランクでは97.5%がICT施工を経験済みです。
地域を基盤とするC、D等級の企業においても、ICT施工を経験した企業は受注企業全体の約6割と着実に増加していますが、これも直轄工事に関する集計となるため、都道府県・政令市の公共工事では、そこまで進んでいない状況です。
建設会社のICT施工原則化への指導が法制化して1年弱経過し、今後は都道府県・政令市の公共工事にもICT施工適用を伸ばしていく必要性から、入契法(入札契約適正化法)を根拠とする、建設会社のICT活用に対する助成制度の導入が進んでいます。
2024年12月施行の改正入契法では、建設会社のICT活用に対する助成などが公共工事発注者の努力義務となったのです。
国土交通省によれば、2025年10月段階で、ICT活用に対する助成制度は、都道府県・政令市の39%(26自治体)にあり、制度がない自治体は52%(35自治体)で、制度導入は過半に達していない状況です。
業界団体の全国建設業協会(全建協)では、地域建設業へのICT機器の実装促進を目的とする「建設市場整備推進事業費補助金」を公募し、導入効果のまとめを行っています。
全建協の調査では、2025年10月現在で、ICT施工に取組んだ会員企業は全体平均で57%であり、今後5年間で会員企業の85%まで高めることを目標に掲げています。
(出所:2025年11月18日「全建協 全国会長会議報告」より)
国土交通省では、「建設業におけるICT導入・活用促進のための支援措置について(2025年11月1日時点)」として、中小建設業者によるICT化に有効な製品を、「中小企業省力化投資補助金(中企庁所管)」の補助対象に追加することを公表しました。
■建設業におけるICT導入・活用促進のための支援措置について(2025年11月1日時点)
これらの助成制度により、地域中小建設業にICT機器導入が進んでいく予定です。
中小建設業へのICT普及拡大の取組
中小建設業へICT化を普及拡大していくための課題は、資金助成だけではありません。人手不足や高齢化などが大手以上に深刻で、省力化は喫緊の課題となっていますが、自社だけでは技術習得や育成環境を整えることが困難となっています。
そこで国や地方自治体、業界団体が施工技術普及のための「実施要領」や「手引き」を作成して提供し、ICT普及促進研修の提供を行っています。
■ICT普及促進研修の例
1.ICT施工技術支援者育成
ICT施工の指導・助言が行える人材・組織を育成することを目的に、都道府県・政令市を対象に支援を実施(令和3年度から開始)
2.ICT施工研修・BIM/CIM研修
ICT施工の普及拡大に向け、地方整備局等にて研修会を実施(対象:施工業者、地方公共団体職員等)(平成28年度から開始)
3.ICTアドバイザー制度
ICT施工の経験者(企業)が未経験企業へアドバイスを行うもの(平成28年度から順次開始)
4.i-Construction・インフラDX人材育成センター
地方整備局に、i-ConstructionやインフラDXの人材育成の中心となる体験型の「人材育成センター」を開設
5.港湾工事における試行的取組
ICT計測機器及び施工管理システムを用いるモデル工事を開始、これと同時に使用が想定されるICT計測機器等の操作説明動画をオンデマンド配信
■小規模工事に活用できるICT施工技術の普及促進
中小建設業が受注する工事は小規模工事が主体となり、ICT化で使用する技術手引きや実施要領も、大規模工事とは異なる専用化が必要です。
またICT建機やICT機器も大規模工事で使用されているものとは異なるため、2022年以降、順次整備を進めています。
狭小な現場での掘削や小規模土工では、手作業が発生していますが、小型ICT建機で対応ができるように、2025年度からは省人化建設機械として認定された型式を活用し、チルトローテータ付き油圧ショベルの省人化効果などを調査・整理しています。
下図は、小規模建設工事に対応したICT施工機器およびICT建機の具体例です。
まとめ
総合資格ナビで複数回取り上げてきたi-Construction2.0の進行に関して、国土交通省や建設業は早い速度で導入を進めています。反面、インフラ老朽化による危険や業界の人材難などが報道される機会は日増しに増えており、10月、11月と中小建設業に対するICT化支援、助成金制度に関する報道が相次ぎました。
各報道は業界紙や業界サイト等に掲載されるため、学生が目にする機会は少ないと感じています。そこで、建設系学生が知っておくべき、直近の業界情報として本記事で取り上げました。
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(本記事は、総合資格naviライター kouju64が構成しました。)










