【2025年3月決算】設備工事業・電気・空調・通信上位50社【業界研究】
サブコン(専門工事業)として、設備工事業への就職を検討する建築学生は多くいると思います。総合資格ナビでは、2025年に入り、4月10日に、 「空調衛生設備系サブコンの基礎知識(売上高ランキング)」、 4月14日に、 「電気設備系サブコンの基礎知識(売上高ランキング)」 として記事掲載を行ない、 6月2日は、 「【2025年3月決算】空調設備工事 上場大手5社売上高ランキングを掲載しました」という記事を掲載して紹介してまいりました。
本記事では、第1章で、「設備工事業」全体について解説し、第2章で、日刊建設通信新聞社の掲載による「設備工事業全体の2024年度業績(単体ベースの完成工事高)ランキング」をもとに、設備工事業を網羅する解説をしていきたいと思います。ランキングは、電気、管、空調などが混在したまま売上(完成工事高)順として、売上規模が比較できるようにしています。
第1章 設備工事業とは
設備工事業は、建物や施設の機能を支えるために必要な、電気・ガス・水道・空調・通信など、さまざまな設備の設置や保守を行う仕事の総称です。建物の骨組みが完成した後、快適な生活や業務に必要なインフラを整える重要な役割を担っています。
主な設備工事の種類
設備工事には多様な分野があり、主に以下のように分類されます。
■電気設備工事
建物の照明、配線、発電設備、受電装置など、電気の利用に関わる工事全般。住宅やオフィスビルの屋内配線、工場の動力設備、防犯システムの設置などが含まれます。
■管工事
冷暖房、給排水、空調、衛生などの設備を設置する工事で、配管やダクトの設置が中心です。それぞれの工事は次のような内容です。
・給排水・衛生設備工事:給水・排水設備、給湯設備、トイレ、厨房設備、浄化槽などの設置を行います。
・空調設備工事:エアコン、換気装置などの取り付けを行います。
・ガス管配管工事:ガス導管やガス内管の配管工事を行います。
■情報通信設備工事
電話回線、ネットワーク機器、情報通信システムなど、情報伝達に必要な設備の設置・設定を行います。
■防災設備工事
火災報知機、消火設備、避難誘導設備など、防災に関わる設備の設置・メンテナンスを行います。
■機械器具設置工事
エレベーター、エスカレーター、工場設備など、専門工事(電気、管など)に該当しない機械器具の設置工事です。
建築物にとって「なぜ設備工事が重要なのか」、その理由をまとめてみます。
1.快適性を確保するため
空調や給排水、電気設備は、快適な室内環境や生活に不可欠です。
2.安全性向上のため
防災設備や電気設備の適切な施工により、建物の安全性を高めます。
3.建物の長寿命化のため
建築設備は、定期的な点検やメンテナンスにより、設備の機能を維持し、建物の寿命を延ばします。
第2章 設備工事業の2024年度決算業績 上位50社ランキング
設備工事業全体の2024年度(2024年4月~2025年3月期)業績を単体ベースの完成工事高順で上位50社のランキング表を作成しました。10社ずつ分割して掲載します。
出典:日刊建設通信新聞社
「建設人ハンドブック2026」2025.9.24掲載をもとに筆者によりデータ編集し作表しました。元データにはない、順位や「主たる工事種別」を付け加えています。
機械器具設備工事業の一形態として、「プラント」がありますが、業界最大手の日揮ホールディングスがランキング表にないのは、本ランキング表が単体ベースになるので、持ち株会社売上高(連結)を集計していないためです。日揮ホールディングスは、総合エンジニアリング業として多数のグループ会社を有しています。
・完成工事高とは:建設工事が完成し、引き渡された工事の売上(収益)を指し、一般的な「売上高」に相当します。
・粗利とは:表では採算性の指標となる完成工事総利益率(工事粗利率)で表示しています。 粗利=(完成工事高-工事原価)となり、工事に関連する材料費や労務費は引いていますが、ここから販売費及び一般管理費を差し引いたものが営業利益です。
■総評
完工高トップ3には、きんでん、関電工、三菱電機ビルソリューションが名を連ね、上位50社のうち、41社が前期実績を上回るなど好調な決算業績でした。
特に採算性の指標である粗利率(完成工事総利益率)が平均14.94%と増加しており、業界全体が価格転嫁など、工事採算性の向上や原価低減施策に取り組んだ成果が表れています。
次期業績の先行指標となる受注工事高も、堅調に推移しており、旺盛な建設需要を背景に大規模工事の受注を積み増しています。
設備工事業の中で、建築系からの就職が多いと思われる、電気設備工事業、空調衛生設備工事業、情報通信設備工事業の動向をまとめておきます。
■電気設備工事業の動向
電気設備工事業は旺盛な建設需要を受けて、好調な業績が続いており、大手5社(きんでん、九電工、トーエネック、ユアテック)の2025年決算業績では、4社が増収、うち3社が過去最高売上高を記録しています。また4社が受注高を前期より伸ばしています。
建設需要のなかでも、事務所ビル、商業施設、データセンターなどの建設ラッシュが市場拡大に結びついています。
反面、人材確保が厳しく、業界団体の一般社団法人日本電設工業協会では、2024年度から2027年度までの「第四次アクションプラン」で、多様な人材確保・育成と処遇改善強化、働き方改革などに取組んでいます。
2025年11月6日、2025年度会員大会で、文挾誠一会長は、「目標である4週8休が主流になってきている。業界一丸となって進めてきた働き方改革が着実に成果を上げてきている」と評価し、「多くの会員が取り組んでいるDX(デジタルトランスフォーメーション)の活用を通してバックオフィスの機能を強化するなど、働き方改革をさらに深化させていく必要がある」と訴えました。担い手不足の解消には、若年層の人材確保策強化、特定技能外国人の受け入れ環境整備など、「担い手確保に向けて業界の総力を挙げて取り組む必要がある」と訴え、業界全体で持続可能性の実現に努めていくことを表明しました。
■空調衛生設備工事業の動向
大手6社(高砂熱学工業、大気社、三機工業、ダイダン、新日本空調、朝日工業社)の2025年3月期決算業績では、前期大型工事の反動で減らした大気社を除き、5社が増収増益となり、売上総利益が過去最高に達しました。
受注高でも5社が増加しており、大型再開発の一般空調や、半導体工場やデータセンターなどの産業用空調の旺盛な需要を取り込んでおり、繰り越し工事高、受注高ともに高い水準を維持しており、好調が続くものと予想されます。
引き続き、2050年カーボンニュートラル実現に向け、省エネルギー性能の高い設備(ZEBなど)への需要が増加していきますので、環境に配慮した設備の導入や技術開発が業界成長の鍵となります。
業界団体の一般社団法人日本空調衛生工事業協会は、建設業界の動向や社会的な課題に対応するため、「新たな中期ビジョン 日空衛2025」を掲げ、カーボンニュートラルやDX(デジタルトランスフォーメーション)を柱とした活動を推進しています。
■情報通信設備工事業の動向
情報通信設備工事業は、モバイル通信品質改善への投資が追い風となり、NTT系を中心に通信キャリア事業や、データセンター需要を取り込み、好調な業績を上げています。
情報通信設備工事大手3社(エクシオグループ、コムシスホールディングス、ミライト・ワン)の2025年3月期決算業績は、3社ともに増収総益を果たし、受注高も増加しています。
業界としては、5G通信の本格展開やデータセンター需要、AI技術の発展やクラウドコンピューティングの普及、DX・IoT化への対応などで、新たな通信設備工事の需要が拡大しており、慢性的な人手不足やコスト増、技術革新への対応といった課題に直面しています。今後は、総務省の「AI社会を支える次世代情報通信基盤の実現に向けた戦略」を踏まえたBeyond5G(6G)への対応や、2030年実現に向けたNTTの次世代情報通信基盤「IOWN(アイオン)」の具体化などが期待されています。
まとめ
設備工事業界は、全般的な技術革新・省エネ化・老朽化したインフラの更新などを背景に、今後も成長が期待される一方で、人材不足やコスト高騰、法規制対応などの課題も抱えています。
建設系学生の進路としては、空気調和衛生設備工事業が主体となりますが、専攻によっては電気設備工事業や情報通信設備工事業に進む学生もいることでしょう。
直近のトレンドとしては、2025年4月に適用された、新築建築物に対する「省エネ基準適合義務化」が、2026年4月1日以降の申請となる非住宅建築物(延床面積300㎡以上)では、より厳格な「一次エネルギー消費量基準」への適合が必要となります。電気設備工事業では、変圧器(トランス)のトップランナー基準が2026年4月から改定されるため、順次、旧基準の変圧器から更新していく需要が生じており、2025年度から更新工事が増加している状況です。
設備工事業界は、安定した需要に加えて新技術の導入により、ますますビジネスチャンスが広がる一方で、現場運営や人材育成、経営戦略の高度化が求められる大変な時代を迎えています。
(本記事は、総合資格naviライター kouju64が構成しました。)





