建設コンサルタントが進める自動設計の現在 第1回【業界研究】

国土交通省が公表したi-Consuruction2.0は、建設現場のあらゆる生産プロセスのオートメーション化に取り組み、2040年までに建設現場の省人化を少なくとも3割にすることを目標としています。

これを受けて、建設コンサルタント業界では設計業務を含めた建設プロセス全体の効率化を目指してBIM/CIM導入が進んでいます。

今後は、2027年度以降から3Dモデルの契約図書化が始まることが決定しており、国土交通省では、2025年度中に課題点などを洗い出すための試行工事を実施して、2026年度にはガイドラインを作成する方針としています。

下図は、国土交通省が示している、「3次元モデルの工事契約図書化」のフローです。

BIM/CIMは2023年4月から原則適用が始まっていますが、現状では、BIM/CIMのデータ作成に多くの作業時間や費用、手間がかかってしまうなど、非効率面が報告されています。

それは土木構造物の設計では、現在も従来通りの設計手順が継続しており、2次元(2D)図面で設計案を作成した後に、BIM/CIMで3次元(3D)モデルを作成していることが多く、設計プロセスからBIM/CIMが外れていることが原因です。

道路や橋梁、ダムといった土木構造物は、比較的均一な部材や設計プロセスが多い建築と違い、案件ごとに地形や地質、周辺環境などの仕様が大きく異なるため、同じモデルを使い回すことが困難なのです。

わが国の土木分野では、長らく国土交通省が主導するCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)が普及してきました。CIMは土木特有の要求に対応するために発展しましたが、この独自路線が、汎用性が高いBIMとの相互運用性の課題を生んでいるのです。

建設コンサルタント業界では技術者不足が深刻な問題となっており、熟練技術者の高齢化が進み、近い将来、大量退職していくことに対処するには、BIM/CIMの環境整備だけでは不十分と見られており、自動設計の技術開発を同時に進めていくことが不可欠とされています。

国土交通省でも将来的にパラメトリックモデルを用いた半自動設計が目標として掲げられ、建設コンサルタント大手各社でパラメトリックモデルなどの活用が続き、基本設計などで実用化が進み始めています。

本記事では、建設コンサルタントが取組んでいる自動設計に関する第1回レポートとして、パシフィックコンサルタンツが砂防堰堤予備設計を対象に開発してきた、パラメトリックモデルを活用した設計システムの概要と効率性について紹介します。

パシフィックコンサルタンツが進める自動設計

BIM/CIMの構造物モデルとは、地形や構造物の形状を3次元で表現した3次元モデルに部材名や寸法、数量などの属性情報を加えたものです。

これまでは構造物モデルを作成する場合、2次元図面から作成することがほとんどでしたが、パラメトリックモデリングは「あらかじめ定義されたテンプレートに対する寸法値等のパラメータを入力するだけで、簡易に作成及び修正が可能となる3次元モデルのこと」とされています。

自動設計システムの概要

パシフィックコンサルタンツでは、3D-CADソフトとして、ダッソー・システムズの「CATIA(キャティア)」を自動設計システムの基盤として採用し、独自の設計ルールプログラムをラグロフ設計工房と共同開発して、設計技術者が入力したパラメータをもとに、設計基準に準拠した設計計算、BIM/CIM、数量計算を自動的に行い、設計結果を3次元的に確認できるパラメトリックモデルを構築しました。

この設計システムは、特定の構造物を想定した「テンプレートモデル」を予め用意することで効率化を図る手法を導入しています。テンプレートに地形や設計中心線、構造形式等を入力すると、その場に適合した構造物が自動的に設計される仕組みです。

パシフィックコンサルタンツは、2019年秋、仏ダッソー社と業務提携契約を交わしてから、自動設計システムの開発を始めて、現在では国土交通省が発注する砂防堰堤や港湾の基本設計業務に自動設計を適用するようになりました。

透過型砂防堰堤の予備設計を想定し、開発した設計システムで設計した作業時間をまとめたものが下表となります。

表に示すように、地形や現地条件、初期条件の設定を含めた「データ準備」に比較的時間を要するものの、これ以降の設計作業は数分程度で完了しており、短時間で3つの設計案を作成しています。これは設計システム内で設計計算が自動的に実施され、設計技術者が施設効果量や安定計算結果等をリアルタイムで確認できた効果と考えられます。

砂防堰堤の予備設計における自動設計システム導入の時短効果は、従来の設計手法と比べて最大7割減になります。

他にも、防波堤の基本設計では、図面作成時間は約3分の1に、数量計算は約6分の1になり、全体の作業時間の約6割を削減する結果となりました。

このように、パラメトリックモデルを活用して開発した新設計システムでは、短時間で複数案を設計することができ、従来設計と比較して大幅に生産性を向上できることが確認できました。

パシフィックコンサルタンツでは、今後は設計技術者の生産性向上だけではなく、例えば、従来ダム軸を10m刻みで設計していた内容を1m刻みで設計するなど、今まで以上に精密な設計で、最適な構造を検討するなど、品質向上についても実証していくとのことです。

まとめ

自動設計は実証を積むごとに、設計精度やシステムの使い勝手が改善向上していくことは間違いなく、今後の展開が楽しみです。

他の建設コンサルタントでも自動設計の技術開発を進めており、総合資格ナビでは、引続きレポートしたいと思います。

本記事作成にあたり、パシフィックコンサルタンツが公開している開発情報及び下記、学術論文を参考としました。

参考:パラメトリックモデルを活用した3次元設計技術の開発(令和7年度砂防学会研究発表会)

著者:パシフィックコンサルタンツ(株) ○菊池 将人・堂ノ脇 将光・上葛 健太・飛岡 啓之、 (株)ラグロフ設計工房 山本 貴裕・石澤 好則・金重 稔、 ダッソー・システムズ(株) 和泉 弘龍

 

(本記事は、総合資格naviライター kouju64が構成しました。)