特集【15】東京海上HDが建設コンサル最大手を買収した目的はどこにあるのか?【建設知識 土木編】

大手・中堅建設コンサルタントのM&Aが急増している背景はどこにあるのか?

大手や中堅の建設コンサルタント会社によるM&A(合併・買収)の成約件数が近年、急増しています。地方では人手不足や事業承継などの課題から業種を問わず積極的に譲渡する会社が出てきており、建設コンサルタント業界でも業界再編の動きが加速してきたといえるでしょう。

例えば、2024年に公表された国内建設コンサルタント会社同士の主な買収は下表の通りです。

出所:各社報道をまとめ筆者にて作成

国内建設コンサルタント会社同士の買収では、名だたる地方企業や専門分野別で上位に位置する企業が譲渡側になる例が増えていて、決して現状の経営不振が原因ではなく、全国展開規模の建設コンサルタントと、地方に強い地盤を有する会社が経営統合する背景には、受注地域の拡大が根底にあると思われます。

建設コンサルタントの受注は公共工事関連が主体になるため、都道府県や市町村が行う工事の入札は、その地域に本社が無いと簡単に受注することはできません。

国土強靭化で地方の公共工事案件が続いていけば、大手建設コンサルタント会社が注力したい地域の建設コンサルタントに買収を持ちかける事例は今後も増えていく可能性が高くなります。

一方、地方建設コンサルタントでは、新規採用など人材確保や事業承継に課題があり、全国大手建設コンサルタントのグループ入りすることは大きなメリットがあるからです。

東京海上HDによる建設コンサルタント最大手ID&Eホールディングスの異業種買収が意味するものは?

2024年11月19日、東京海上ホールディングス(以下、東京海上HD)は、建設コンサルティングのID&Eホールディングスを買収すると発表しました。

同年11月20日から2025年1月15日にかけてTOB(株式公開買い付け)を実施して、980億円程度となる全株式取得に動いていくとのことでした。

ID&Eホールディングスは建設コンサルタント業界不動のトップといわれる、日本工営を傘下に抱え、2023年7月に持ち株会社に移行したばかりです。全く異なる業界大手に買収されるということで、建設コンサルタント業界には衝撃が走りました。

その後、予定通りに買収は完了して、2025年5月12日にID&Eホールディングス株式会社は上場廃止となりました。

今回の買収は突然決定したものではなく、2021年11月に東京海上HD傘下の東京海上日動火災保険が日本工営などと共に創設した防災コンソーシアム(CORE)から、協働体制が始まっていました。

ID&Eホールディングス側は、現状は公共工事が順調で業績が伸び続けている中で、新しい方向性を見いだす必要性を感じており、東京海上HDからの協業提案に賛同して、2022年8月から経営統合に向けた両社議論を開始していたのです。

その後のM&Aに関する一連の流れは下図の通りです。

東京海上HDがID&Eホールディングスを子会社化した狙いは?

東京海上HDは従来の保険ビジネスに加え、自然災害による被害を抑える取り組みに力を入れています。そこで災害の被害が大規模化するなかでも、企業活動の維持を後押しするための解決策を企業に示す「東京海上レジリエンス」を2023年11月に設立していました。

また、2024年5月に公表した中期経営計画に防災・減災の領域を事業の柱に育てる方針を示していたのです。

これらに先駆けた動きが、2022年から開始した、日本工営を含めた企業などと災害に関するリスクデータをもとに新たなビジネスの創出をめざす試みでした。

では実際に、両社はどのような事業展開を模索しているのか。その一つが、東京海上HDが持つ保険のノウハウとID&Eホールディングスが保有する防災技術を掛け合わせた新ビジネス「防災コンサルティング」の展開です。

災害後に経済的に補償する従来の保険事業だけでなく、事前予防から事後の復旧までを一気通貫で商品・サービスを提供するビジネスを目指しているということです。

東京海上HDは「防災コンサルティング」のサービスを、保険とは別に提供するか、保険の掛け金に含めて提供していくビジネス展開を検討中だということです。

つまり東京海上HDは、ID&Eホールディングスが持つ防災技術を保有することで、保険に新たな付加価値を生み出して、収益性の改善をはかりたいということです。

ID&Eホールディングスが東京海上HD傘下となるメリットは?

ID&Eホールディングスは東京海上HDの傘下に入ることで、公共需要だけではなく、民間の防災・復旧事業を拡大していく狙いがあります。これには東京海上HDが保険事業で培ってきた民間顧客とのネットワークが活用できる点が大きなメリットになるでしょう。

ID&Eホールディングスのグループ会社には、建設コンサルティング事業を手掛ける日本工営の他に、エネルギー事業の日本工営エナジーソリューションズや都市空間事業の日本工営都市空間などがあります。

ID&Eホールディングスが、東京海上HDの子会社になることを選択した理由の一つは、同社グループが進める三本柱となる事業で、それぞれ民間市場を開拓できる道が開けてくると判断したことにあります。

下表はID&Eホールディングスの各社事業と傘下企業をまとめたものです。

出所:ID&Eホールディングス資料より 筆者による作成

まとめ

今回の経営統合に関して、東京海上HDとID&Eホールディングス、それぞれの経営統合メリットを図示してみました。

従来はまったく異業種と思われた、損害保険事業と建設コンサルタント事業が、提携・連携の枠を超えて経営統合に向かったことは、大きな驚きではありましたが、今後はこのように業界・業種を超えたM&Aがますます活発化してくるのかもしれません。

 

(本記事は、総合資格naviライター kouju64が構成しました。)