建設業で取得が進むITパスポート、その理由を探る【業界情報】

ITパスポートとは、どのような資格なのか?

ITパスポートは、「情報処理推進機構(IPA)」が試験実施する国家資格で、「情報処理の促進に関する法律」に沿って経済産業省が設置する、「情報処理技術者試験」の一つになります。

国家資格によくある「特定の職業に就くにあたって、法律上必須になる資格」ではなく、すべての社会人や学生を対象として、ITの基本的な知識を身につけるための入門資格として位置づけられています。

ITパスポートを取得することで、ITの基礎知識を有することを証明できるため、就職や転職に役立つほか、業務でIT活用能力を向上させるメリットがあり、業種を問わず多数の企業が推奨資格としています。

本格的に情報処理技術者として活躍を目指すとなれば、下図のようにステップアップしていける多くの国家資格があり、ITパスポートは入門資格で難易度もそれほど高くはないため、特に多数が受験しているものになります。

ITパスポート試験の概要

ITパスポートは、試験時間120分で100問の出題に解答する試験です。出題形式は四肢択一で、試験はCBT方式(コンピューターを使った試験)で全国の試験会場で随時受験可能です。またハンディキャップ等でコンピューター受験できない人を対象に、年2回(春・秋)特別措置で筆記試験会場が設定されます。

■出題内容・合格基準・合格率など

出題数100問中、総合評価は92問で行い、8問は今後出題する問題を評価するための出題です。得点は満点が1000点で、分野別評価の問題はストラテジ系32問、マネジメント系18問、テクノロジ系42問が出題されます。

合格基準は以下の通り、総合評価点と分野別評価点の基準点をどちらも満たす必要があります。

合格基準(総合評価点):600点以上/1,000点(総合評価の満点)

合格基準(分野別評価点)

・ストラテジ系:300点以上/1,000点(分野別評価の満点)

・マネジメント系:300点以上/1,000点(分野別評価の満点)

・テクノロジ系:300点以上/1,000点(分野別評価の満点)

※総合評価点が600点を超えていても、分野別評価点のいずれかが300点未満の場合は不合格となります。つまり合格するには、全体で6割、3つの分野でそれぞれ3割以上の評価点を獲得する必要があるのです。

合格率は平均で約49.1%。近年は50%~55%ほどで推移しています。

難易度はそこまで高くないものの、受験者の約半数が不合格になるため、しっかりとした準備が必要です。最近では過去問演習だけでなく、新出用語の対策も重要になっています。

下図は試験元がまとめたITパスポート試験の概要です。

建設業でITパスポート取得が進んでいる理由について

ITパスポートは2009年に開始され、今では年間20万人以上が受験しています。受験者年齢も10代から70代まで幅広く、やはりIT系や事務職の受験が多くなっています。

建設業では、2020年以降、人材不足の解決や業務効率化対策によって急激にIT化が進み、BIM/CIM活用やICT施工など、建設現場やオフィスでデジタル情報機器、通信機器の使用が前提となり、各種報告や情報共有はクラウド上で行うなど、DX推進が必要不可欠となりました。社員は高齢化が進んでいても、部門、役職、職種を問わず全員がIT活用できる人材である必要があるのです。

建設業のICT化やDX推進は国策であり、現在はGX建機の開発など業界全体が規模の大小を問わずIT化に取り組んでいます。これらの動きを背景にITパスポート取得を社員に求める建設会社が増えてきているわけです。

建設業のITパスポート取得推進事例

■東急建設

東急建設は2023年度に「東急建設デジタル人材全体像」を策定し、社員の知識レベルを評価する指標としてITパスポートを採用し、全社員に取得推奨する方針を打ち出しました。

オンライン講座の情報を整理して案内したり、過去問を基に「腕試し問題」を作成したり、学習環境づくりに力を入れました。受験に向けて部署ごとに目標人数を設定し、合格者に受験料を補助するなど、取得支援を実施した結果、2024年度に合格者が目標の500人を上回りました。

今後は資格取得者を対象に、IT知識を実務に活かす研修を展開していきます。

■大林組

大林組では、IT/デジタル知識を全従業員に効率的かつ網羅的に身に付けてもらうため、ITパスポート試験の重要性や取得後の活用法を理解させる、オリジナルの研修を実施しました。教材配布や受講料補助を進めて、2025年3月現在、ITパスポート取得者が519人となりました。

■鹿島建設

ITパスポート試験を含め情報処理技術者試験の資格を推奨資格としています。特に、情報システム部門の社員には、基本情報技術者試験以上の資格を取得させています。

■鴻池組

IT知識を組織全体の共通基盤と位置づけ、全社員がITパスポート試験の合格を目指しています。社内ポータルに「ITパスポート特設ページ」を開設し、参考書や社員の合格体験記などを紹介して、受験を推奨しています。さらに合格者には奨励金を支給する制度を設けることで、合格を後押ししています。

■清水建設

2024年4月からオンライン教材の提供や、合格者に受験料を補助する制度を開始して取得を奨励しています。2025年3月の累計合格者数は266人です。

■大成建設

2024年1月から事務系社員の取得を必須として取組を開始しています。

役職者向けのデジタルトレーニングプログラム「DXアカデミー」において、ITパスポート受験希望者に抽選で参考書の配布をしています。

まとめ

紹介した企業は、建設業から一部を抜粋したものですが、「ITパスポート試験ホームページ」では、製造業や通信企業、金融業などに加えて、電気・鉄道等のインフラ企業、官公庁・自治体、大学・高専・専門・高校など、多数の活用事例が紹介されています。

建設系学生はPCやソフトウェアの使用機会が多くなっているので、高いスキルを持つ方も多いと思いますが、今後ますます情報セキュリティの知識やAI、デジタルツイン等の活用が必要になるはずです。建設業の取得奨励により、業界で急激に合格者が増えていることから本記事で紹介いたしました。

ご興味を持たれた方は、この機会に試験元のホームページをご確認ください。

出典:ITパスポート試験ホームページ

出典:独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)

 

(本記事は、総合資格naviライター kouju64が構成しました。)