
建設現場で導入が進む建設ディレクター!注目すべきその仕事内容は?【業界情報】
建設業界では、「2024年問題」などを端緒とした働き方改革が急速に進んでいます。慢性的な人手不足の状況の中で、インフラ老朽化や物流施設、データセンターなどの建設需要が拡大しており、多くの建設工事や脱炭素への建設プロジェクトで建設業務は膨れ上がっているのです。
これらの解決手段としてDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進や、i-Construction2.0による建設現場のオートメーション化を進めていますが、最新のIT業務に対応しつつ、労働時間短縮を進めていくのは、高齢化が進んだ現場技術者にとっては負担が増すことが多いことでしょう。
そのような背景の中で、新たな職域として注目され、導入が進んでいるのが「建設ディレクター」です。
本記事では、建設ディレクターの職域や導入効果とメリット、将来像について解説します。
建設ディレクターはITとコミュニケーションで現場とオフィスをつなぐ
建設ディレクターは、2017年に設立された「一般社団法人 建設ディレクター協会」が創出した新たな職域です。現在は民間資格であり、建設ディレクターの名称は(一社)建設ディレクター協会の登録商標です。
建設現場の施工管理技術者は、現場監督業務だけではなく、現場に関わる書類作成など多岐に渡る事務業務もこなしていかなければならないのが実情です。
建設ディレクターは、現場技術者の負担を軽減し、作業の効率化と就労時間の短縮を図る効果的な取組みとして「働き方改革」を進めるために、ITとコミュニケーションで現場とオフィスをつなぐ新しい職域として創出されたのです。
以下は「建設ディレクター協会が目指す姿」からの引用です。
上記のように建設ディレクターは、「デジタルスキルを活かせる」仕事と魅力的にうつり、従来は建設業に関わりのなかった人々からの多様な人材採用につながる職域と想定されています。
専門スキルを身につけて、工事施工に係るデータの整理及び処理、提出書類の作成管理やICT業務を行い、現場とオフィスをつなぐ支援をすることで、技術者が品質管理や技術継承に集中できる環境をつくる位置づけです。
施工管理技術者の残業過多は、現場稼働時間外で行う事務作業によることが多く、このバックオフィス業務を切り出して、建設ディレクターに分業することで、2024年度以降の残業規制に対応していくことができます。
建設ディレクターの仕事内容
建設ディレクターが担う主な業務は、大別すると、「施工書類やデータ作成」と「ICT業務」になります。多岐にわたる技術者の書類業務をワークシェアして業務効率化をはかり「個人からチームで仕事する」仕組みづくりを進めていきます。
かつては書類作成業務などを建設現場に配属された新入社員や若手監督が担ってきた面がありました。現在は人手不足や採用難で、建設現場は省人化が進み、必要最低限の技術者しか配置できていない現状があります。
建設ディレクターの導入により、適切なワークシェアリングに貢献し、ベテラン技術者がよりコアな業務に集中できることで生産性向上につながります。
建設ディレクターの資格・テストについて
建設ディレクターは国家資格ではなく民間資格であり、受験資格も特にありません。そのため難易度はそれほど高くはなく、年齢や職種を問わず幅広く受験可能です。
建設ディレクターになるには、(一社)建設ディレクター協会が実施する「建設ディレクター育成講座」を受講して、全8回(計35時間)の講座を受講した後に、修了テストを受けることで「建設ディレクター認定証」交付を受け、資格が認定されます。
そこで、実際には建設ディレクター候補として建設企業に採用された人材が、企業の費用負担等で「建設ディレクター育成講座」を受講することで資格認定を受けて、建設現場に配属後、段階的に業務を習得しながら、自社の建設ディレクター業務を確立していくようなイメージです。
女性や事務作業希望者が建設現場で活躍できる
建設ディレクターの仕事内容はバックオフィス業務がメインとなるため、事務作業を希望する女性が採用されるケースが多くなっており、「建設ディレクター育成講座の参加者は約7割が女性」というデータがあります。
このことから新規雇用創出のきっかけになっているともいえ、出産や育児、介護といった事情に対しても、勤務時間短縮や在宅リモートワークで対応できる業務が多い点が大きな魅力となっています。
建設ディレクター導入事例(国土交通省発表の事例集より)
2023年、国土交通省は「建設業における働き方改革推進のための事例集」を公表しており、この中で「建設ディレクターによる生産性向上の取組【株式会社西九州道路(本社:佐賀県佐賀市)】」として具体的な事例を取り上げています。
上記事例にある株式会社西九州道路は、土木(舗装工事業)の中小建設業ですが、長時間労働是正のために、建設ディレクターを新規採用し、現場監督の書類作成業務の約半分を担当させて、就業を定着させているということです。
入社から建設ディレクターとして活躍するまで、下記の通り段階的に業務習得を進めて、スムーズな連携を実現させています。
■1年目:写真整理、CAD操作・図面編集、測量補助
■2年目:数量計算書、出来形管理、品質管理、工程管理、産廃関係、電子納品、図面作成
■3年目:着工前測量成果簿、施工計画書作成等、書類関係全般
建設ディレクターを導入するメリット
建設ディレクターを導入する第一のメリットは、分業により現場技術者の長時間労働が軽減できて、業務の効率化が期待できることです。
また若手技術者の最も多い離職原因は、「日中は現場にでて監督業に忙殺され、夜遅くまで事務所に残って書類作成に忙殺される」ことです。早朝から深夜までの過重労働で休みも取りにくい環境で、コミュニケーションを取ったり、業務を分け合ったりする仲間もいないとなれば、まじめに取り組む人材ほど次第に余裕がなくなり、心が折れてしまいます。
最近は規制によって「残業ができない」ことが、「できないから、いつまで経っても書類仕事が完成しない」と新たなストレスを生んでいることはよく聞かれます。
建設ディレクターが担う役割は「ITとコミュニケーションで現場とオフィスをつなぐ」ことになりますので、現場技術者が日中に監督業務を進めている間に、事務処理や必要な連絡手配などが進んでいくことになります。日々、多忙な建設現場で施工管理技術者にとって、これほど心強いことはないでしょう。
まとめ
総合資格ナビ読者の皆さんは、建設系学科の学生が中心になりますので、建築・土木の専門資格を取得できる受験資格を有しています。ですから、多くは業界に就職してすぐに独占業務資格を取得し、設計・施工管理など建設技術者として活躍されていくことでしょう。
皆さん自身が建設ディレクターになることは少ないかもしれませんが、建設現場で活躍する際には、心強い仲間として、建設ディレクターが配属されているかもしれません。また皆さんの中から、将来は建設ディレクターの職域で活躍する人材が出てくる可能性がありますし、もっと可能性があるのは、皆さんが建設ディレクターの採用や育成、業務指導に関わる立場になっていくことだと思われます。
建設ディレクターの導入事例や導入企業については、(一社)建設ディレクター協会のホームページで多数紹介されていますので、興味をもった方はこの機会に確認してみましょう。
(本記事は、総合資格naviライター kouju64が構成しました。)