「国土交通省DXビジョン」の全容について解説します【業界情報】

2025年6月、国土交通省は、「国土交通省DXビジョン」を発表し、DX施策を強力に推進していくために、今後、わが国が目指していくべき方向性や、取り組みを強化すべき領域を明示しました。

このビジョンは、単なるデジタル化からDX推進への転換策として、行政手続きを通じて得たデータを徹底的に活用して政策立案に活かすことや、オープンデータ化によりデータを国民に還元してイノベーションにつなげていくことなど、「DX推進の羅針盤となる施策」をまとめたものです。

本記事では、広範にわたるDXビジョンから重要ポイントを抽出し、わかりやすく全容解説を試みます。

「国土交通省DXビジョン」策定の背景

現在、わが国では、人口減少や少子高齢化、頻発する自然災害や気候変動、インフラ老朽化など社会的な課題が山積しています。これらの環境変化に対して、わが国は各国と比較してデジタル化が遅れており国際競争力も低下している状況です。

国土交通省では、データとデジタル技術の積極的な活用により、社会経済の激しい変化に柔軟かつ素早く対応する目的で、DX化を推進し成果を創出していく方針です。

その最初の段階で、顕在化する課題を解決するためのビジョンを策定して公表するものです。

出所:国土交通省DXビジョン

国土交通省DXビジョンの基本理念と強化すべき3つの領域について

国土交通省DXビジョンは、「データを基軸としたDX施策の連携による価値創出の加速」を目指しています。

その基本理念は「行政サービスのデジタル化」、「データを活用したEBPM」、「オープン・イノベーション」を、強化すべき3つの領域とし、データを最大限活用しながら、「国土交通施策のDX」、「所管業界のDX/生産性向上」と相互連携を推進することで、既存の仕組みを変革し新たな価値創出を加速します。

今後は、年10件程度のユースケースを生み出し、2030年を目途に自律的な取組みが展開できる環境づくりを目指します。

あわせて、「データ」、「人材」、「セキュリティ」の3つの基盤的領域を強化推進し、「国民の安全・安心の確保」、「持続的な経済成長の実現」、「個性を生かした地域づくりと分散型国づくり」の実現を目指していきます。

下図は「DXビジョン基本理念」を図示したものです。

「行政サービスのデジタル化の推進」が目指す姿

国土交通省は所管手続き件数が多く、順次デジタル化に取り組んできましたが、手続内容(提出書類・審査項目)はそのままで、単に申請申込や申請書提出をメールやフォームで行う「デジタル化」も見受けられ、「業務効率効果が低い」、「申請情報をデータ活用できない」などの課題がありました。

今後はデジタル化が可能な手続きについては、二度手間や重複を排除し、一貫したデジタル処理を行い、効率的な行政運営を実現し、国民向けサービスの利便性を向上させます。

あわせて、業務改革(BPR ※Business Process Re-engineering)を実施し、電子申請率の向上に努めるとともに、デジタル化したデータの活用や、業界におけるDXの誘発など、デジタル化の付加価値を最大化します。

「データを活用したEBPMの推進」で目指す姿

現行のEBPM※の取組は、主に行政事業レビューシートにおけるロジックモデルの作成等により行われており、定量的な指標が設定されているが、国土交通省の豊富な行政情報をより活用した分析等が十分に確立していない現状です。

※EBPM(Evidence-Based Policy Making)とは?

証拠に基づく政策立案のことで、政策を立案・実行・評価する際に、経験や直感ではなく、客観的なデータや統計、分析結果などのエビデンス(合理的根拠)を活用する手法のことです。

今後はデータ拡充・管理・配信等を一貫して行う仕組みや汎用的なEBPMツールの開発を行います。そして、政策立案・評価におけるデータ分析やレポート作成などに職員が日常的に活用できる「データ活用型EBPM」を推進していきます。

※EBPMツールとして、Project LINKS(国土交通分野のデータ整備・活用・オープンデータ化プロジェクト)を開発

「オープン・イノベーションの推進」で目指す姿

現状は、オープンデータ作成のスキームが確立されておらず、データへのアクセスや活用促進施策が不十分なため、オープンデータ化しても十分な活用成果が表れていません。

これからは、オープンデータ化に係る「秘匿化ルール」作成やProject LINKSによる伴走支援など、オープンデータ化推進のための環境構築をはかります。

ユースケ-ス開発や開発イベントの開催、データ活用ツールの提供など国民がオープンデータを利用しやすい環境を構築しイノベーション創出を推進していきます。

「基盤的領域の強化」で目指す姿

■データ拡充

保有しているがデータ活用できていない膨大な情報を、データとして再構築するため、サステナブルかつ効率的なデータ収集スキームを確立し、データ仕様の標準化を推進します。

データの「使い道」としてのユースケース開発やオープンコミュニティによる活用を進めて、データ拡充を推進していきます。

■人材育成

国土交通省では「国土交通省デジタル人材確保・育成計画」を策定していますが、山積する行政課題や、飛躍的に進展しているデジタル技術を効果的に活用することが、持続可能な行政運営には不可欠とされています。

今後は、政府立案においてデジタルを通じた課題解決ができるよう、職員全体のITリテラシーやデジタルに対する感性の向上を図っていきます。

プロジェクト管理の品質向上や予算の効率的な執行、セキュリティ強化等の観点から、業務内容や役割に応じて、ITベンダーと対等に議論できる能力の向上など、デジタル人材育成を強化していきます。

■サイバーセキュリティの確保

サイバー脅威の変化に対応して、情報システムの効率的なセキュリティを確保するため、情報システムのライフサイクル(企画・設計・開発・運用・廃棄)を通じて、一貫したセキュリティ対策を実施する考え方に基づくサイバーセキュリティが確保されている状態を目指します。

国土交通分野におけるサイバー防御の強化を図り、全方位でシームレスにサイバー攻撃への対処能力強化を目指します。

国土交通分野のDXを加速する横断施策(まとめ)

データを最大限活用しつつ、「国土交通政策のDX」・「所管業界のDX/生産性向上」の効果を最大化し、新たなシナジーを生み出していくためには、領域間・部門間・施策間が連携して、一体的に取組を進める「領域横断的連携施策」の強化が必要となります。

行政手続から取得した情報を「データ」として蓄積・データベース化し、ダッシュボード(データ可視化・分析ツール)やGIS(地理情報システム)と接続する仕組みを作れば、業務効率の改善だけでなく、政策品質の向上も期待できるほか、データのオープン化も併せて推進することで、データを国民に還元し、イノベーションの創出が期待でき、効果的に「国土交通政策のDX」や「所管業界のDX」を推進することが可能となります。

国土交通省DXビジョンでは、このような領域横断的連携施策を全省的に推進していくことになります。

■領域横断的連携施策の例

今後の展開

「国土交通省DXビジョン」はデータプラットフォーム構築を通じて、国民や民間企業や教育機関にオープンデータを還元していきます。気象、地理空間、交通、インフラの状態など複数データを統合して提供することにより、行政の意思決定の迅速化や大学、民間企業との共同研究などによるイノベーションを加速することが期待できます。

わが国では、今後、人口減少と地域の衰退が進み、地方では公共交通の維持が難しくなります。一方で都市部では過密による交通渋滞や住宅不足が問題となっていきます。こうした課題に対して、地域ごとに最適解を見出していくために、データやデジタル技術を活用したDX施策が促進されていくのです。

建設業では老朽化が進んだインフラの整備や、物流問題の解決、防災・減災対策や、自動施工(i-Construction2.0)の標準化などにオープンデータが活用され、生産性向上に大きく寄与していくことでしょう。

業界研究においてもDXビジョンの動きに注目していく必要があり、本記事で取り上げました。

出典:「国土交通省DXビジョン」を策定しました(国土交通省)

 

(本記事は、総合資格naviライター kouju64が構成しました。)