
AIアシストで構造設計業務が大幅に効率化!(大手ゼネコン編)【業界情報】
建築物の構造設計には、耐震性や経済性、施工性など多様な性能要件が求められています。構造設計業務では、これらの要件を満たしたうえで、建築計画に合致した架構の形状や、梁や柱などの部材の配置やサイズを決定していきます。
現代の建築設計において、構造設計業務が果たす役割はとても大きく、その進歩が優れた建築デザインや建築物の性能を支えているといっても過言ではないでしょう。
本記事では、建設業に求められている効率化や省人化、自動化をAIプログラムのアシストにより果たしている、大手ゼネコンの実例について紹介します。
断面設計を自動で行う構造設計支援AIプログラム(大林組)
大林組は、2025年6月24日、構造設計業務の一部である「断面設計」を自動で行う「構造設計支援AIプログラム」を開発したことを発表しました。
熟練設計者のノウハウを数式化して組み込んだAIプログラム
従来の断面設計では、建物の構造性能を担保すると同時に、機能性や意匠性も考慮する必要があるため、部材形状の決定までには、設計者が構造力学の知識と経験に基づいて、構造解析や評価を何度も繰り返す必要があり、設計変更の度に構造設計者に多大な負担が生じていました。
大林組がギリア株式会社の協力を得て開発した「構造設計支援AIプログラム」では、こうした反復作業を自動化し、基本設計から詳細検討を行う実施設計にかけて、AIがアシストすることで、構造設計者がより多くの時間を別案の検討や改良へ振り向けることが可能になりました。
このプログラムは、AIで数式化された熟練した構造設計者の知見と、数理最適化手法による最適なアルゴリズムを組み合わせたもので、迅速かつ合理的な断面設計を実現し、これまでは数時間要していた計算を数分程度で処理することができます。
AIプログラム3つのポイント
1.クラスタリングによる構造部材の自動グルーピング
構造設計者は、断面設計時に構造部材の長さや、地震などにより部材に生じる力など、多様なパラメータによって部材のグルーピングを行います。これまでは設計者が手作業でグルーピングしており、経験の差などによって、グループ数や分類の明確さなどにばらつきが生じるという課題がありました。
本プログラムではAIが自動的にグルーピングを行い、設計者はグループ数を自由に設定できるため、コストや施工性などプロジェクトごとの要件を反映した最適な配置計画を立案できます。また、複雑な構造設計においても、迅速かつ柔軟な設計が可能となりました。
2.長年のノウハウを数式化したルールベースAI
本プログラムでは、大林組の構造設計者が長年にわたり蓄積してきたノウハウをルールベースAIによって数式化し、各構造部材に要求される性能を整理します。
また、数理最適化手法を活用し、短時間で最適な構造部材の断面を提案します。
さらに、個々の部材だけではなく、構造骨組全体のバランスを同時に考慮することで最適な断面形状を導き出します。
3.AIによる設計プロセスの可視化
本プログラムでは、AIが導き出した最終結果だけでなく、設計プロセスを一目で把握できるため、想定と異なる結果が出た際にも迅速に理解することができます。
この過程の可視化は、構造設計者の視点を広げ、建物特性への理解が深まり、部材断面の最適化にとどまらず、構造計画全体の質を向上させる手助けになります。
本プログラムにより、従来1週間を要していた断面設計を1日に短縮できるようになりました。
また本プログラムは、現時点では鉄骨造建物を対象としていますが、大林組では、今後は鉄筋コンクリート造や混合構造への適用を順次進めていき、設計プロセス全体を通じたAI活用を促進して、構造設計者のニーズに沿った新機能の開発・導入を図っていく方針です。
構造設計をクリエイティブに「構造設計AIシステム」(竹中工務店)
竹中工務店は、2001年に自社開発した構造設計システム「BRAINNX」を構造設計業務に利用しています。竹中工務店には自社で20年以上にわたって「BRAINNX」で設計した建物約500件、30万以上の構造部材の諸情報が蓄積されており、これを「構造設計AIシステム」に学習させ、「BRAINNX」の機能として実装することで、設計業務における計算作業に使う時間を、大幅に削減することができるようになりました。
構造設計AIシステムを構成する3つのAI
構造設計AIシステム「BRAINNX」は、AI建物リサーチ・AI断面推定・AI部材設計の3つから構成されています。
1.AI建物リサーチ
AI建物リサーチは、類似性の高い過去事例を自動探索して、最適な構造計画の提案を支援します。プロジェクト初期段階で構造計画提案を支援するため、構造計画別の部材数量を容易に比較でき、合理的な構造計画の方針決定が可能となります。
2.AI断面推定
構造設計結果を学習したAIが、柱・梁などの配置条件や構造的特徴から必要断面寸法を推定します。部材の断面情報を迅速に決定して、顧客の速やかなプラン検討を支援します。
3.AI部材設計
部材ごとに算定された仕様をまとめ、より合理的に安全性や生産性の高い最適な構造設計を支援します。多数回繰り返しの検討業務を自動化することで、付加価値の提案に費やせる時間を確保し、より高品質な建物設計を実現します。
竹中工務店の構造設計AIシステム「BRAINNX」は、AI建物リサーチにより、全国・全用途の類似プロジェクト調査時間を1/20に短縮し、AI断面推定で仮定断面入力までの時間を1/10に短縮、AI部材設計で、繰り返し作業時間を1/5に短縮します。
この大幅な時間削減は、構造設計者がよりクリエイティブな構造設計提案を検討する余裕を生み出すことにつながっています。
設計初期段階における構造検討業務をAIで支援する「SYMPREST」(清水建設)
清水建設では、設計初期段階における鉄骨造の構造検討業務を支援するAI「SYMPREST」を開発し、デジタルプラットフォーム「Shimz DDE」に収納、クラウド上でWEBアプリケーションとして2023年10月より社内運用を開始しています。
「SYMPREST」は、デジタルデザイン戦略の一環として、AIソリューション事業を手掛けるヘッドウォータース及びヘッドウォータースコンサルティングの協力を得て開発されました。開発では業務の高度化と効率化を同時に図ることで、設計者の働き方改革を促進することも目的としています。
構造検討の効率化+高度で迅速な提案を可能とするデジタルデザイン手法
設計初期段階の構造検討業務においては、頻繁なプラン変更が常態化しており、設計案件が増加傾向にあるため、複数案の同時検討も頻繁に起こっていました。
このような変更や検討に際して、構造設計者の負担も増加する一方であることから、構造検討業務の効率化を図るとともに、高度で迅速な提案を可能とするデジタルデザイン手法としてAI「SYMPREST」が開発されました。
構造架構を自動生成するアルゴリズムを開発して、構造架構データを約1,500棟分生成
「SYMPREST」は、高さが60m以下の比較的、形状が整った鉄骨造のオフィスビルに適用可能で、検討中のオフィスビルの形状・寸法を入力すると、瞬時に形状に概ね合致した構造架構をデータベースから複数抽出するとともに、躯体数量も併せて表示することができます。
構造設計者がイメージに合う構造架構を選択し、スパン構成などを微調整すると、AIが架構を構成する全部材の仮定断面を反映した3次元モデルがモニター上に構成されます。3次元モデルには構成部材の断面寸法が表示される仕組みとなっており、生成された3次元モデルは、実施設計に用いる構造解析プログラムの入力データに変換できるため、解析準備に要する時間や労力を大幅に削減できます。
開発においては、AIの学習データ用構造架構を自動生成するアルゴリズムを開発し、15階以下(地下無し)、1方向最大10スパンという条件下、さまざまなオフィスビルの規模・形状に応じた構造架構データを、約1,500棟分生成しています。(2023年10月)これらのデータをAIに学習させることで、部材断面推定の習熟度を高めて実用化しています。
清水建設では、今後は超高層オフィスや他の用途・構造形式の架構生成も行い、AIの機能拡充を図っていく方針です。また、独自デジタルプラットフォーム「Shimz DDE」の拡充を図り、設計業務全般の高度化と効率化を推進していくとしています。
まとめ
本記事では、構造設計業務における大手ゼネコン3社のAIプログラム活用の実例を紹介しました。各社で実務導入を通じて、さらにシステムの改善が進んでいます。AI活用はBIM活用と合わせて、設計業務の効率化とより高度な設計提案に貢献していくことでしょう。
■出典
断面設計を自動で行う構造設計支援AIプログラムを開発(大林組プレスリリース)
構造設計をクリエイティブに-構造設計AIシステム-(竹中工務店リリース)
設計初期段階における構造検討業務をAIで支援(清水建設ニュースリリース)
(本記事は、総合資格naviライター kouju64が構成しました。)