測量業界はすべての土木事業を支える基盤データを整備して「地図をつくる」業界です【建設知識 土木編】

土木学生が必ず経験する測量は「地図をつくる」仕事になる

土木を学ぶ建設系学部の学生が必ず経験しているのが測量実習です。実務では人の目に触れる機会が少ない測量業の実態はどのようなものでしょうか?現代の日本は測量・調査という屋台骨を支える技術があるからこそ成り立っているのです。

測量会社の仕事は、重要な基盤データ整備を主軸として、すべての社会施設を支える根底に位置しています。その計測技術は多岐にわたり、従来からの現地測量をはじめ、宇宙からの衛星観測(リモートセンシング)、上空からの航空機・ドローン計測(写真・レーザ)、地上での車載写真レーザ・地上レーザ計測、船上からの水中ナローマルチビーム計測など、さまざまな計測技術を駆使して、陸・海・空・宇宙から地球上の地形・地物情報の位置を正確に捕捉しています。

計測された情報は主に下図のような関連事業に活かされ、それ以外にも書ききれないくらい多くの事業を下支えしているのです。

また近年は国が推進している三次元基盤データへの対応を進めており、i-Construction2.0による建設生産システム全体の生産性向上にも積極的に取り組んでいるのが測量業界です。

大手ゼネコンのキャッチフレーズに「地図に残る仕事」という表現がありますが、測量業界が行うのは、まさに「地図をつくる仕事」といえるでしょう。

測量業は20年連続で減少、建設コンサルタント、地質調査業は横ばい

測量業は全国でどれくらいの数があるのでしょうか?国土交通省では、毎年度末の国土交通大臣登録業者数を集計して公表しています。下図は2024年9月に国土交通省が公表した、2023年度末現在までの測量業、建設コンサルタント、地質調査業の登録業者数推移をグラフ化したものです。

■測量業:11,313業者(新規登録267業者、登録削除業者431)

前年度比164業者(1.4%減)、平成15年をピーク(14,750業者)に20年連続で減少

■建設コンサルタント:3,932業者(新規登録233業者、登録削除業者232)

前年度比1業者(0.03%)増、平成17年をピーク(4,214業者)にほぼ横ばい

■地質調査業:1,230業者(新規登録12業者、登録削除業者39)

前年度比27業者(2.1%)減、平成17年をピーク(1,390業者)にほぼ横ばい

測量業は測量法に基づき、昭和36年(1961年)から登録が開始されました。その業者数は上記通り20年連続で減少していますが、建設コンサルタントや地質調査業と比較しても数倍多い業者数があり、測量業務の需要に応えるためにピーク時の平成15年までは右肩上がりで増加してきたことがわかります。

近年の業者数減少は、基盤データの計測が一巡したことに加えて、計測技術が高度化し、要求されるデータも「三次元地形図」等に変化してきたために、手作業による現地測量から、航空写真測量等に手法が変わったため、大手測量会社や建設コンサルタントが測量業務を担うようになった影響が大きく、また近年は大手・中堅事業者がM&Aにより他社をグループ会社とする事例が急増している影響もあると思います。

本記事では、測量分野の売上高が多い建設コンサルタント上位10社と、測量会社6社について紹介します。

主要な測量会社(1)建設コンサルタント上位10社

建設コンサルタント会社には、測量事業や他の調査業務を兼務する企業が多くなっています。例年、日経コンストラクション(日経BP社)で、建設コンサルタントの業務分野別売上高ランキングを公表しています。その中から2024年度の測量売上上位10社を紹介します。

■株式会社パスコ(239億2,100万円)

1949年設立。測量・計測サービス会社最大手で、本社は東京都目黒区。人工衛星や航空機、ドローンなどに最先端のセンサーを搭載して地上の様子を捉える「遠隔の視点」、現場で見て聞いて触ることで社会の現状を捉える「近接の視点」、AIやIoT・GIS・画像処理などの技術を使って取得した情報を「分析・解析」する技術を強みに空間情報サービスを提供する。国土交通省の「Project PLATEAU」に参画しています。

■国際航業株式会社(136億6,300万円)

1947年設立。地理空間情報サービスの先駆けで、本社は東京都新宿区。鉄道や道路網整備などの建設コンサルタント分野から、地質・海洋調査、防災・環境エネルギー分野などまで、総合的な空間情報コンサルティングを行い、リモートセンシング技術を活用した衛星観測や、UAV測量、MMS(モービルマッピングシステム)、VRなど、最先端のICT技術を導入しています。国土交通省の「Project PLATEAU」に参画しています。

■アジア航測株式会社(134億4,800万円)

1949年創業。東京都新宿区と神奈川県川崎市に本社を構える、空間情報コンサルタント会社です。自社の航空機とセンサーによる空間情報の収集・解析から、活用方法の提案や事業実施プラン策定までを行います。AIやクラウド、IoTなどを組み合わせたセンシング・イノベーションサービスも得意分野。国土交通省の「Project PLATEAU」に参画しています。

■復建調査設計株式会社(17億円)

社団法人復興建設技術協会中国四国支部から法人設立されました。本社は広島で全国に展開しています。土地、工作物、海洋の測量及び空中写真による測量と解析を行います。2006年、アジア航測(株)と技術提携締結の後、2011年に資本業務提携を締結しています。海外(ベトナム・ミャンマー)にも法人設立しており、近年は、(株)日本構造橋梁研究所(2008年)、第一復建(株)(2009年)、㈱大設(2015年)、(株)文化財サービス(2017年)、(株)サンキ(2017年)、(株)宮崎測量設計コンサルタント(2021年)、(株)西部試錐工業(2023年)をグループ会社化して事業規模を拡大しています。

■昭和株式会社(16億8,200万円)

1946年設立。本社は東京都千代田区。総合技術コンサルタントとして、1962年首都高速道路や地下鉄建設のための測量調査から測量業務を開始しています。地理空間情報事業として、測量、3次元計測、地理情報業務、情報管理支援システムを展開しています。

■南海測量設計株式会社(16億6,700万円)

1965年創業から、測量を主体として国土調査事業・建設コンサルタント事業を担っています。本社は愛媛県松山市で、四国、中国、近畿を地盤に全国21府県で国土調査事業の実績を有します。

■株式会社フジヤマ(16億1,800万円)

1971年設立で、翌年より航空測量業務を開始しています。本社は静岡県浜松市。航空写真測量により作成された地形図、写真地図を基盤に「GIS(固定資産情報、道路施設情報、農地情報など)」を展開しています。3次元計測機器により取得した点群データを、PLATEAUなどの3D都市モデルの作成やBIM/CIMをはじめ各種設計業務に活用しています。

■株式会社オオバ(15億2,900万円)

東京都千代田区に本社を構える建設コンサルタント会社。ほぼ官庁直営だった測量業務を民間で担うべく、測量事務所として1922年に創業されました。基準点測量、地形測量、用地測量などの地上測量から、高精度な3次元位置情報が求められるGPS測量などあらゆる測量に対応しています。

■株式会社八州(13億7,400万円)

1947年設立。前進は八洲興業株式会社測量部として発足しており、当初より測量業を中心に展開しています。1967年、大洋航空株式会社を吸収合併し、航空写真測量部門に本格進出、国内およびアジアを中心に海外でも実績を積み上げています。2014年以降は、3次元技術を本格的に利用開始して、新国立競技場建設に伴う用地測量や、高輪ゲートウェイ駅周辺整備に関する測量業務を実施しました。

■株式会社日本インシーク(13億1,200万円)

1972年設立。前身は大阪で創業した株式会社アスコと新潟で創業した株式会社大東設計コンサルタントです。2016年に両社が経営統合し、会社名を株式会社アスコ大東に変更した後、2019年に日本インシークに社名変更しました。測量や空間情報処理技術を基にした建設コンサルティング業務を行い、近年はICT機器による写真測量やレーザ使用による測量を得意としています。対象は道路やライフライン(上下水道、電力)、河川、港湾、防災など多岐にわたります。

主要な測量会社(2)売上高上位の測量会社

■朝日航洋株式会社(2022年 90億1,759万円)

1955年創業。航空事業と空間情報事業を軸に事業展開する、トヨタ自動車系列企業で、本社は東京都江東区です。青函トンネル建設工事の測量調査やリモートセンシング技術を活用した防災対策、デジタルツインを応用したインフラの効率的な維持・管理などにも貢献しています。

■株式会社トラバース(2022年 35億9,732万円)

1976年、株式会社佐藤測量事務所として設立。本社は千葉県市川市。当初は公共測量から開始し、1979年からハウスメーカー(戸建用)測量を開始しました。現在も、大和ハウス工業、積水ハウス、住友林業など、多数の大手ハウスメーカーを取引先として、戸建住宅を中心とした測量調査、地盤・土質調査など敷地調査、地盤改良工事、外構工事などを手がけています。

■中日本航空株式会社(2022年 26億4,893万円)

1953年設立。愛知県に本社を構える総合航空会社で、航空事業の他、航空調査・測量事業を手がけています。調査・測量事業では、航空レーザ計測や航空写真撮影、リモートセンシング、地上測量など、先端技術を駆使して高精度な3次元空間情報を提供しています。

■東電タウンプランニング株式会社(2022年25億8,819万円)

東京電力グループの総合インフラ企業で、2001年設立です。本社は東京都港区。無電柱化・地域開発事業、広告事業、配電事業といった電気関連事業を主軸としており、電柱や電線、道路下ケーブルなどの設計、工事に伴う測量や竣工検査などを行っています。

■東京技工株式会社(2022年 25億4,017万円)

1954年創業。本社は東京都千代田区。ガスパイプライン事業を主体にしたインフラ整備の総合コンサルタントで、パイプラインに関連する調査・測量・設計や、橋梁構造物の調査・点検・測量などを手がけています。測量業務では、GNSS測量やオンライン地形測量、トータルステーション基準点測量など最新技術を活用しています。

■株式会社協振技建(16億8,341万円)

1963年創立。東京ガスグループで、本社は東京都文京区。都市ガス導管の設計・測量を主たる事業とし、GNSS測量やトータルステーション、最新ソフトウェアを活用して、上下水道、通信、道路などライフラインの設計・測量を手がけています。GIS開発・販売や地図データベース構築・運用管理などの事業も展開しています。

測量業界の市場規模は?

日本の測量市場規模は約7,500億円と推計されています。測量業者数は減少傾向にありますが、市場規模は安定しています。

国内の測量業の登録業者数が、20年連続で減少しているのは、建設業界全体の高齢化や後継者不足、建設需要の減少などが要因として考えられます。

但し、測量業界では、ICT技術の導入やドローンを活用した測量などで、高効率化や省力化を図る動きが活発化しており、3次元計測を主とした高度な空間情報技術の導入が進んでいます。本記事で紹介した測量会社や建設コンサルタントは、海外でも積極的に実績を伸ばしており、国内では防災・減災対策の推進や老朽化した交通インフラ、ライフラインの再整備など尽きることのない需要を担っていきます。

近年業界で進んでいるM&Aも、経営不振を背景としたものではなく、業務拡大や経営効率化、財務体質などの改善を見据えた、戦略的な経営統合が多くなっています。

建設学生の皆さんは、業界・企業研究の際には、有する経営基盤や保有する最新技術、今後の経営計画などに着目していくようにお奨めします。

 

(本記事は、総合資格naviライター kouju64が構成しました。)