
日本工営と東京海上グループがAIによる「道路マネジメントモデル」を構築、品川区が支援【建設DX】
東京海上と日本工営といえば、昨年11月に発表された、「東京海上ホールディングスによる、ID&Eホールディングス(日本工営の持ち株会社)買収」に関する一連の報道が未だ記憶に新しいことでしょう。
損保最大手による、建設コンサルタント最大手のM&Aが、いかなる経営ビジョンによるものなのか?総合資格ナビでも、前記事で概要を紹介していました。
特集【15】東京海上HDが建設コンサル最大手を買収した目的はどこにあるのか?【建設知識 土木編】
本記事では、東京海上スマートモビリティ株式会社と日本工営株式会社が、共同で推進する「AI×データが創る道路マネジメントモデル構築プロジェクト」が、東京都が運営する「東京データプラットフォーム(TDPF)※」のケーススタディ事業に採択されたことと、そのプロジェクト概要を紹介します。
※東京データプラットフォーム(TDPF)とは
東京都では、デジタルの力で東京のポテンシャルを引き出す「スマート東京」の実現に向け、官民の様々なデータの利活用を促進し、新たなサービスの創出を後押しする「東京データプラットフォーム(TDPF)」を運営しています。TDPFでは、データ利活用促進の一環として、官民の様々な分野のデータの掛け合わせや、新たなデータ利活用のユースケースを創出する先駆的なプロジェクトを選定し、支援するケーススタディ事業に取り組んでいます。
ケーススタディ事業に採択された「AI×データが創る道路マネジメントモデル構築プロジェクト」
「AI×データが創る道路マネジメントモデル構築プロジェクト」は、東京データプラットフォーム(TDPF)がケーススタディ事業で採択した5つのプロジェクトの1つで、東京都品川区の協力のもと、民間の車載カメラ映像データとAIを活用し、限られた財源で導入可能な新しい道路維持管理モデルの構築を目指すものです。
本プロジェクトは、従来の巡回業務の負担軽減と同時に、維持管理の高度化を実現して、都民の安全・安心な暮らしに貢献していくことを狙いとしています。
急速に進む「道路インフラ老朽化」問題を解決することが目的
わが国では、全国的に道路インフラの老朽化が急速に進んでいます。国土交通省では、建設後50年以上経過する道路インフラの割合は、今後20年で2倍以上に急増するとしています。
道路インフラには、橋梁やトンネルを含みますが、東北大学などの調査では、生活者が日常的に不安を感じているのは「道路舗装・路面の老朽化」や「横断歩道・区画線など道路標示の不備」といった身近な問題であり、その割合は橋梁やトンネルへの不安の3 倍以上にのぼるとの結果が出ています。
しかし自治体では、その維持管理を担う人手不足が深刻化しており、基礎自治体の約25%で土木専門職員が不在、約16%で巡回点検未実施という実態が明らかになっているのです。既存のDX技術は、高コストであったり、適用範囲が限定的であったりと導入のハードルが高いのが現状です。
これらの課題を解決するため、本プロジェクトでは、特別な専用設備を必要とせず、AI と民間データを活用することで、財源が限られる自治体でも実装できる、持続的な道路マネジメントモデルを構築するものです。
保険(東京海上)と防災技術(日本工営)のノウハウを活かすプロジェクト
東京海上スマートモビリティには、自動車保険でも利用される、車載カメラデータの豊富な解析ノウハウがあります。これに、日本工営が有するインフラの設計・維持管理に関する豊富な知見を掛け合わせ、2025年8月~2026年3月まで、3つの実施項目について取り組みます。
実施項目【1】 民間車両の車載カメラ映像分析で多観点の異常データを取得
品川区内を走行する民間事業者の車両に車載カメラを搭載し、映像を画像認識AIで分析して、「路面のポットホール・ひび割れ」「標識の異常」「横断歩道のかすれ」など、多様な観点から道路の異常を自動検知します。
これにより、職員による巡回業務の大幅な効率化を目指します。
実施項目【2】 複数の官民データを掛け合わせて修繕対応を優先度付け
車載カメラの映像分析で検知した道路の異常データに、TDPF で公開されている交通量や歩行者量データ、自治体が持つ通学路情報、そして東京海上スマートモビリティが保有する「AI交通事故発生リスク分析データ」などを掛け合わせます。
これにより、修繕箇所の優先順位を決定し、道路メンテナンスの予算執行を最適化する手法を検討します。
実施項目【3】 多様な主体とのデータ流通を促進しデータの共同活用を提言
道路は国、都、区市町村など管理者が異なるほか、道路上の設備は電力・通信会社など多くの事業者が個別に管理しています。1つの映像データから得られる検知結果を複数の主体で共同利用するモデルを提言し、データ流通の促進と社会全体のインフラ維持コストの低減を目指します。
今後の展開
本プロジェクトで得られた知見や成果は、TDPF を通じて、モデルケースとして全国に情報発信され、東京海上スマートモビリティと日本工営は、本プロジェクトが終了する2026年4月以降は、全国の自治体の道路マネジメントの高度化を支援し、地域住民の安全で快適な暮らし(QOL)の向上に貢献していく計画としています。
出典:「AI×データが創る道路マネジメントモデル構築プロジェクト」が 令和7年度 東京データプラットフォーム(TDPF)ケーススタディ事業に採択(東京スマートモビリティプレスリリース)
(本記事は、総合資格naviライター kouju64が構成しました。)