海外建設コンサル業務、2024年度受注総額は前年から126億円減、ウクライナが10位に【業界研究】

一般社団法人 国際建設技術協会が調査実施している、「海外コンサルティング業務等受注実績調査」の2024年度調査結果が、2025年9月2日に発表されました。

国際建設技術協会は同協会と海外運輸協力協会、海外農業開発コンサルタンツ協会、海外コンサルタンツ協会に所属する建設コンサルタント会社などを対象に、海外コンサルティング業務などの受注実績調査を実施し、2024年度は81社から回答を得ています。回答企業のうち67社が海外業務を実際に受注していたとのことです。

本記事では、その調査結果から抜粋して「海外コンサルティング業務」受注状況の解説を行います。

海外コンサル業務受注額は減少続き、2024年度は前年から126億円減

海外における建設コンサルタント会社などの海外コンサル業務受注総額は、2年連続で減少し、2024年度の受注総額は前年度比13.5%減の806億4000万円でした。

2023年度は932.4億円でしたので、金額では126億円の減少となりました。

上図グラフは、2016年度以降、2024年度までの海外コンサル業務受注総額推移をグラフ化したものですが、かつては1千数百億で推移し、ピーク時となる2019年度には1433.7億円となった受注総額は、新型コロナウイルス禍による2020年度以来の低迷から抜け出せていないことがわかります。

2024年度の受注件数は861件で、前年度が713件。ピーク時の2019年は676件であり、受注件数自体は増加していますが、業務1件当たりの受注額の平均が下落傾向にあるのです。

下グラフは、「1件あたりの受注額」推移をグラフ化したものです。

2024年度の業務1件当たりの受注額は1億円を下回り9400万円となりました。

これは、近年と比較しても突出して低額であり、ピーク時2019年度の2.12億円と比較すると半減以下となっています。

国際建設技術協会によると、規模の大きな円借款事業の案件形成がコロナ禍によって滞り、その影響がまだ残っていると見られ、大型案件受注が進んでいいないことが現況を生んでいると思われます。

新型コロナウイルスの感染拡大が始まる前、4年間(2016年度-2019年度)は、受注総額は平均1325億円でした。2020年度以降は、1000億円台か900億円台で推移していましたが、2024年度は800億円台に落ち込んだことになります。

海外コンサル業務受注額で、大きな割合を占める国際協力機構(JICA)※からの受注額の内訳を見ると、円借款事業※の受注額の減少が目立ち、2019年度は865億円あったものが、2024年度は223億円に減少しています。

大型案件が多い円借款事業の減少が、受注総額の低迷と平均受注額の下落に影響していると見られます。

円借款事業は、事業形成まで数年を要するため、実施に向けたコンサルティング業務がコロナ禍の影響で約3年半にわたり制限された影響が大きいと思われます。

※JICA(国際協力機構)とは?

JICA(国際協力機構)は、「Japan International Cooperation Agency」の略で、日本の政府開発援助(ODA)を一元的に実施する独立行政法人です。

開発途上国の専門家を日本に招いて研修を行ったり、日本の専門家を現地に派遣して技術指導をするほか、無償資金協力および、有償資金協力による、医療・教育・インフラ整備などを支援したりしています。

※円借款事業とは?

JICAが実施する有償資金協力の一つで、開発途上国に対して、低利・長期・緩やかな条件で資金を貸し付ける仕組みです。

受注額を技術サービス別に見ると、川下に当たる詳細設計や施工監理などが大きく減っています。川上の事業形成の遅れが、川下の金額の大きな業務発注の遅れにつながっていると見られます。

業務分野別の受注額・受注割合の現況について

海外コンサル業務受注額において、業務分野別の受注状況をまとめたものが下表となります。

業務分野別の受注割合は「運輸交通」が最も割合が大きく、2024年度も320.8億円で、39.8%を占めていますが、前年度に比較すると100億円以上減少し、割合も6.3%減となりました。

次いで「計画・行政分野」が82.3億円、10.2%、「社会基盤・通信・放送」が79.0億円、9.8%、「公共事業」が68.9億円、8.5%という順になりました。

世界の地域別受注状況について

世界の地域別受注額では、例年通りアジア地域が最大となり、受注件数も前年度より35件増加しましたが、金額は418.9億円と前年度比126.9億円減少しました。

次いで受注額が多かったのは、アフリカ地域で前年に続き、件数、金額とも増加しました。それ以外の地域別受注額を2023年度、2024年度が比較できるようにグラフ化したものが下表となります。

※NIS地域とは?

NIS地域とは、ウクライナ、タジキスタン、ウズベキスタン、キルギス、アルメニア、ジョージア、アゼルバイジャン、トルクメニスタン、ロシア連邦、ベラルーシ、カザフスタン、モルドバ(以上12ヵ国)になります。

国別受注額でウクライナがトップ10入り

国別受注額の上位10カ国では、例年と同様に東南アジアや南アジアの国々が上位を占めています。

下表は、海外コンサル業務、国別受注額 上位10ヵ国をグラフ化したもので、上段(緑)が2024年度受注額、下段(灰色)が2023年度受注額で、国別に年度対比できるようにしています。

国別受注額では、フィリピンが1位(117.2億円)、2位がバングラデシュ)72.9億円)、3位がインドネシア(47.7億円)、4位がインド(35.9億円)、5位カンボジア(29.5億円)の順となりました。

以上が上位5国となりますが、2024年度に初めてウクライナがトップ10入りしました。ウクライナは前年度比94.0%増と急伸していますが、直近でも日本政府によるインフラ復興支援策として、国土交通省が、2025年1月に「日ウクライナ・国土交通インフラ復興に関する官民協議会」(JUPITeR)を設立し、ウクライナの復興支援を開始しています。

この経緯とウクライナで実施した遠隔施工技術の事前調査について、下記事で紹介しておりますので、未読の方はぜひご一読ください。

日本の遠隔施工技術でウクライナ復興に貢献!国交省が事前調査を実施しました【建設NEWS】

まとめ

2025年9月現在、わが国の政治に関する報道は、昨年度からの衆参総選挙結果から、10月4日に投開票されることになった自民党総裁選など、政局展開に向けたものが多くなっています。

総合資格ナビは、政治改革や特定政党に関する情報提供サイトではありませんが、日々の報道に埋もれがちな、国土交通省や建設系団体、建設業界、企業から発信される建設系ニュースを、建設系学生にわかりやすく紹介することを旨としています。

2025年8月に横浜で開催された「第9回アフリカ開発会議(TICAD9)」で、JICAが日本の4自治体を、アフリカ諸国の「ホームタウン」として認定したことから始まった「アフリカ・ホームタウン問題」が報道されていますが、多くの方が否定的に捉えた、この問題の背景にある、「海外支援と海外からの建設受注」に関する相関情報の一部として、本記事で紹介しました。

わが国の建設業による「海外インフラ市場への展開」も重要な成長戦略と捉えていくことが必要です。未読の方は、下記記事で国土交通省の計画を紹介していますので、ぜひご一読ください。

国土交通省インフラシステム海外展開行動計画で、日本が海外85プロジェクト受注を目指す!【業界情報】

出典:令和6年度受注業務対象 海外コンサルティング業務等受注実績調査(一般社団法人国際建設技術協会)

 

(本記事は、総合資格naviライター kouju64が構成しました。)