2025年度版!! 準大手ゼネコン10社 決算概況と展望 徹底解説(後編)【業界研究】

本シリーズでは、準大手ゼネコン10社の2024年度決算報告をもとに、各社の現況と今後の展望を前編・後編の二部構成でお届けしています。

前編では、長谷工コーポレーション、インフロニア・ホールディングス、五洋建設、戸田建設、フジタの5社を紹介しました。

本記事(後編)では、熊谷組、三井住友建設、安藤ハザマ、西松建設、東急建設を紹介します

熊谷組の2025年3月期 決算解説

熊谷組は、土木と建築の両分野で強みを持つ準大手ゼネコンです。

土木分野では、特に国内外のトンネル工事で豊富な実績を有し、北陸新幹線や徳山ダムなど大型プロジェクトにも関与しています。

建築分野では、都市再開発や中大規模木造建築にも注力しており、台湾では「TAIPEI 101」などのランドマーク建築を手がけています。近年は住友林業との協業による木質バイオマス発電や木造建築ブランド「with TREE」など、環境配慮型建築に注力しており「環境ナンバーワン企業」を目指す姿勢が明確です。

熊谷組の2025年3月期連結決算の全体像を見ていきましょう。

熊谷組は、2024年5月に『熊谷組グループ 中期経営計画(2024~2026年度)~持続的成長への新たな挑戦~』を策定して、①建設事業の強化、②周辺事業の加速、③経営基盤の充実を基本方針として、グループ一丸となった取り組みを続けてきました。

2025年3月期連結売上高(完成工事高)は、4,985億円で、増加していた期首手持ち工事の消化が進み前期比553億円(12.5%)増となりました。営業利益は142億円で、前期比16億円(13.0%)増でした。同様、経常利益は144億円で前期比13億円(10.5%)増、当期純利益は93億円で前期比10億円(12.5%)増と、増収増益でした。

事業分野別の業績は、下表の通りです。

土木事業

売上高は1,051億円(前期比5.0%増)、営業利益は69億円(同54.3%増)となりました。

主な完成工事には、信濃川左岸流域農業水利事業 1号幹線用水路1号トンネル建設工事(農林水産省)、国道452号 芦別市 鏡トンネル工事(国土交通省)、東海環状自動車道大須ヶ洞第三橋他1橋(下部工)工事(中日本高速道路)などがありました。

建築工事

売上高は、2,671億円(前期比17.3%増)、営業利益は8億円(同60.2%減)となりました。

主な完成工事には、(仮称)安城市大東町商業施設計画新築工事(三井不動産)、西新宿五丁目中央南地区第一種市街地再開発事業 施設建築物等新築工事、(仮称)アパホテル&リゾート〈大阪難波駅タワー〉新築工事などがありました。

子会社

売上高は1,358億円(前期比8.5%増)、営業利益は64億円(同8.0%増)となりました。

2025年度以降の展望

「中期経営計画(2024~2026年度)~持続的成長への新たな挑戦~」の3か年計画に引き続き取り組み、原価高騰に対する価格転嫁など採算見直しを継続して、売上・利益の確保に取り組む計画です。

海外建設事業では、大型土木工事(インドネシア)、台湾のランドマーク建築工事など、アジア地区で工事受注拡大を進めていきます。

中期経営計画では、2026年度の売上高5,000億円、経常利益300億円を財務目標として、周辺事業(不動産開発250億・再生可能エネルギー100億・その他50億)に400億、設備投資に90億円、経営基盤の充実(研究開発・人財・DX等)に210億円を投資して、2035年度までに「年間収益130億円規模」を目指しています。

三井住友建設の2025年3月期 決算解説

三井住友建設は、ともに財閥系である三井建設と住友建設が2003年に合併して誕生しました。土木事業、建築事業、海外事業を三本柱として事業を展開しており、PC橋梁や超高層建築物といった高度な技術分野に強みを持ち、設備投資にも積極的に取り組むことで、競争力を維持している準大手ゼネコンです。

土木事業では、橋梁、道路、トンネル、上下水道などのインフラ整備を手がけ、建築事業では、超高層ビル、マンション、商業施設、病院、学校などの建築物を建設しています。海外事業はアジアを中心に、インフラ整備や建築事業に積極的に取り組んでいます。

2025年5月14日、準大手ゼネコンの前田建設工業や前田道路などを傘下に持つインフロニア・ホールディングスによる、三井住友建設の完全子会社化を目的としたTOB(株式公開買い付け)実施が発表されました。同年9月に公開買い付けを終了し、経営統合の準備を進めて、2026年初頭から同グループとなる予定です。

三井住友建設の2025年3月期連結決算の全体像を見ていきましょう。

2025年3月期の売上高は、約4,630億円で、前期比165億円減少(同3.4%減)となりました。損益では、年度施工中の国内大型建築工事において、工事損失引当金繰入額を含む131億円の損失を計上していますが、その他工事の採算性を改善して、営業利益は約76億円(前年度比9億円減)、経常利益37億円(前年度比26億円減)、親会社株主に帰属する当期純利益9億円(前年度比32億円減)となりました。

事業分野別の売上高等は下表の通りです。

土木部門

売上高は概ね前期並みの2,136億円(前期比1.4%減)となりましたが、前期に比べて採算が大きく好転する大型工事が少なかったことなどにより、売上総利益は276億円(前期比16.8%減)となりました。

建築部門

売上高は、施工体制の確保を最優先に受注量を一時的に抑制したことにより、2,496億円(前期比5.4%減)となりました。売上総利益は、採算重視の取り組み徹底により、国内大型工事を除く工事の採算が改善して、55億円(前期比199.3%増)となりました。

2025年度以降の展望

2025年5月14日付で、インフロニア・ホールディングスによるTOB実施が公表され、上場廃止を予定しているため、2026年3月期業績予想は公表されませんでした。

2025年3月期のインフロニア・ホールディングスと三井住友建設の連結売上高を合計すると、1兆3105億円となり、売上規模は大手5社に次ぐ規模となります。

また、土木売上高は4600億円を超える規模となり、大成建設グループに次ぐ業界2位規模となるでしょう。

三井住友建設は、子会社22社、関連会社7社の合計29社を有するグループ企業でもありますが、インフロニア・ホールディングスの完全子会社となることで、経営基盤はより盤石となると思われます。

同社が持つ橋梁工事や超高層マンションの施工ノウハウでグループ全体の技術力が底上げされる見込みであり、三井住友建設が持つ東南アジア・南アジアでのODA実績を活かし、インフロニアの海外事業展開に貢献する可能性があります。

安藤ハザマの2025年3月期 決算解説

安藤ハザマ(株式会社安藤・間)は、土木と建築の両分野でバランスよく事業を展開する準大手ゼネコンです。2013年、建築に強い安藤建設と、土木に強みをもつ間組が合併して誕生しました。「人と技術で、未来に挑む」というスローガンを掲げており、「ChangeBuilder」という企業理念を掲げ、社会の変化に対応しながら、新しい価値を創造する姿勢を打ち出しています。

有名な施工実績には、東京ビッグサイト、中山競馬場スタンド、長井ダム、ペトロナスツインタワー(マレーシア)などがあります。

安藤ハザマの2025年3月期連結決算の全体像を見ていきましょう。

2025年3月期連結売上高は4,251億円(前年度比7.9%増)、営業利益352億円(前年度比89.6%増)、経常利益340億円(前年度比83.6%増加)、親会社株主に帰属する当期純利益は264億円(前年度比90.5%増加)と増収増益となりました。

売上高に比べて利益が大幅増加となったことは採算改善効果によるものと思われます。また、後述しますが、建築事業売上が二桁の伸びとなったことも奏功しています。

事業分野別の売上高等は下表の通りです。

土木事業

売上高は1,327億円(前年度比0.3%減)、営業利益は151億円(前年度比7.6%増)となりました。

主な完成工事は、福岡広域都市計画都市高速鉄道事業5号西日本鉄道天神大牟田線新線工事3工区(西日本鉄道)、R3霞ヶ浦導水石岡トンネル(第1工区)新設工事(国土交通省)、R1-4朝日温海道路4号トンネル工事(国土交通省)などがあります。

建築事業

売上高は2,613億円(前年度比16.6%増)、営業利益は269億円(前年度比199.8%増)となりました。

主な完成工事は、EXPO2025 大阪・関西万博 サウジアラビア館建設工事、量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル拠点(仮称)整備事業(国立研究開発法人産業技術総合研究所)、株式会社クボタ 枚方製造所 T棟新築工事(1~9)などがあります。

グループ事業

売上高は237億円(前年度比24.8%減)、営業利益は10億円(前年度比40.2%減)となりました。

その他

売上高は72億円(前年度比41.3%増)、営業利益は6億円(前年度比306.7%増)となりました。

2025年度以降の展望

2026年3月期は経常利益265億円の達成を目標としています。

長期ビジョン「安藤ハザマVISION2030」で、「企業価値向上」「会社の魅力向上」を基本に「中期経営計画2025」を進めており、建設事業ではICT・AI技術の活用による自動化、省人化、生産改革を推進します。また、再生可能エネルギーや複合ビル開発などにも取り組んでいます。

人的資本への投資では、人事制度の改定や研修拡充を行い、従業員満足度も向上しています。ESG経営では温室効果ガス削減、人権尊重などの施策を実施し、「社会とともに成長する持続可能な企業グループ」を目指しています。

西松建設の2025年3月期 決算解説

西松建設は、150年以上の歴史を持つ準大手ゼネコンで、土木と建築の両方に対応していますが、特にダムやトンネルなど大型土木工事で豊富な実績を有しています。

「現場力」を企業理念に掲げ、現場での課題発見と解決力を重視しています。また、利益率や自己資本比率が高く、安定した財務基盤を持つことでも知られています。

建築部門は国内中心で、ランドマーク的な有名建築よりは、堅実な施工案件に注力している印象です。土木部門は道路やダムなどの公共インフラや都市開発などに強みを持ち、海外展開は東南アジアでのプロジェクトが中心です。

西松建設の2025年3月期連結決算の全体像を見ていきましょう。

売上高は3,668億円(前年度比348億円減、8.7%減)となりました。国内建築工事及び不動産事業等の減少が、その要因となっています。

一方で、主に国内建築工事の利益増加により、営業利益は210億円(前年度比12.1%増)となりました。経常利益は、202億円(前年度比3.3%増)、当期純利益は投資有価証券売却益を特別利益に計上したこと等から、175億円(前年度比41.6%増)となりました。

事業分野別の売上高等は下表の通りです。

土木事業

主に国内土木工事が概ね順調に進捗し、売上高は1,079億円(前年度比1.0%増)となりました。営業利益は、前期に大型工事で設計変更を獲得できた反動等により、完成工事総利益が減少し、88億円(前年度比20.4%減)となりました。

建築事業

一部大型工事が前期に竣工した反動があり、売上高は1,933億円(前年度比18.5%減)となりました。営業利益は価格転嫁による採算性改善により、64億円(前期は3億円)となりました。

国際事業

国際事業は、主に海外土木工事と海外建築工事の売上で構成されています。売上高は、464億円(前年度比40.4%増)となりましたが、営業利益は8億円の損失(前期は5億円損失)となりました。

西松建設単体の国際事業受注高は、シンガポールで大型土木工事を受注したこと等から、前期比45億円増(42.8%増)の150億円となりました。

アセットバリューアッド事業

主に保有不動産の販売及び賃貸収入により構成されています。売上高は、販売事業の減少により、270億円(前年度比5.4%減)となり、営業利益は74億円(前年度比16.0%減)となりました。

地域環境ソリューション事業

主に再生可能エネルギー事業及びまちづくり事業の売上により構成されています。売上高は、5億円(前年度比155.7%増)となり、損失7億円(前期8億円損失)となりました。

2025年度以降の展望

2025年度は「中期経営計画2025」の「収益改善プラン」を継続し、高収益体質を目指します。物価上昇の影響が減り、工事の収益性が上がることで大幅な増益となる見通しです。

2026年3月期の連結売上高は、4,200億円(前期比14.5%増)、営業利益250億円(前期比18.5%増)、経常利益240億円(前期比18.7%増)、親会社株主に帰属する当期純利益176億円(前期比0.3%増)を見込んでいます。

成長投資では、人材の確保・育成やDX推進、技術開発などの施策を継続し、投資スピードを上げていきます。伊藤忠商事との協業も拡大・強化し、中長期的な企業価値向上を目指しています。

東急建設の2025年3月期 決算解説

東急建設は、東急グループの準大手ゼネコンとして、渋谷ストリームやスクランブルスクエアなど、渋谷再開発での実績を多く有しています。鉄道・道路・橋梁などの土木事業から、オフィスビル・商業施設・住宅・病院などの建築事業まで、都市のインフラと暮らしの両方を支えており、売上の約67%が建築部門と、準大手ゼネコンの中でも高い建築比率を誇ります。複雑な都市再開発を手がけ、駅周辺の機能を止めずに工事を進める技術力が評価されています。

東急建設の2025年3月期連結決算の全体像を見ていきましょう。

東急建設グループは、「長期経営計画“Tozero,fromzero.”」に基づき、国内土木・建築・建築リニューアル事業を「コア事業」、国際・不動産・新規事業を「戦略事業」と位置づけ、人材とデジタル技術を競争優位の源泉として3つの提供価値(「脱炭素」「廃棄物ゼロ」「防災・減災」)を軸とした5つの重点戦略(「東急建設ブランドの訴求・確立」「コア事業の深化」「戦略事業の成長」「人材・組織戦略」「財務・資本戦略」)に取り組んでいます。

2025年3月期連結売上高は2,931億円(前期比2.6%増)となりました。営業利益は88億円(前期比8.4%増)、経常利益は97億円(前期比0.4%減)、親会社株主に帰属する当期純利益は66億円(前期比8.7%減)となりました。

事業分野別の売上高等は下表の通りです。

建設事業(建築)

売上高は、海外工事が減少したものの、国内民間工事及び国内官公庁工事の増加により、約2,200億円(前期比1.9%増)となりました。営業利益は118億円(前期比20.8%増)となりました。

建設事業(土木)

売上高は、海外工事が減少したものの、国内官公庁工事及び国内民間工事の増加により、684億円(前期比2.4%増)となりました。営業利益は45億円(前期比24.8%増)となりました。

不動産事業等

売上高は、49億円(前期比55.6%増)となりました。損益面については、販売用不動産の売却等により利益を計上したことに加え、長期開発事業からの撤退に伴う費用の見積りの減少により不動産事業等損失引当金を取り崩した結果、148億円(前期比32.5%減)の営業利益となりました

2025年度以降の展望

引き続き、「長期経営計画“Tozero,fromzero.”」に基づき、グループの持続的な企業価値向上を目指していくとしています。2026年3月期は、売上高3,090億円(前期比17.1%増)、売上総利益266億円を見込んでいます。

 

以上、「後編」では、熊谷組、三井住友建設、安藤ハザマ、西松建設、東急建設を紹介しました。

「前編」では、長谷工コーポレーション、インフロニア・ホールディングス、五洋建設、戸田建設、フジタの5社を紹介しています。未読の方は、ぜひ続けてご覧ください。

 

(本記事は、総合資格naviライター kouju64が構成しました。)