2025年12月全面施行「改正建設業法」3つのポイント【国土交通省】

2025年12月12日に「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」の改正規定について、完全施工されました。

2024年6月に成立した改正建設業法は、長時間労働の是正や人手不足といった建設業界の構造的な課題に対応するためのルール変更といえるものでした。

本記事では、2025年12月に全面施行となった建設業法改正の主な内容と、その改正が建設事業者にどう影響するのかを、2024年9月、12月施行の改正点も含めて解説していきます。

建設業法改正の背景と3つのポイント

国土交通省によると、建設業は深刻な担い手不足、高齢化の進行、そして長時間労働という喫緊の課題に直面していることがわかります。

2024年時点の建設業就業者は477万人まで減少しており、全産業に占める割合は7.03%です。特に高齢化が進行し、就業者全体のうち55歳以上が36.7%、29歳以下が11.7%という構造的な問題を抱えています。

さらに、建設業の生産労働者賃金は全産業と比較して低く、労働時間は長くなっています。2023年実績では、全産業の年収額508万円に対し、建設業は432万円、全産業の年間実労働時間1956時間に対し、建設業は2018時間でした。

一方で、建設業では、就労条件などを背景に就業者の減少が続いており、建設業がその重要な役割を将来にわたって果たし続けられるようにするため、担い手確保に向けた取組を強化することが急務となっているわけです。

また、昨今の急激な資材価格の高騰を受けて、現場技能者の賃金の原資となる労務費等がしわ寄せを受けないよう、高騰分の適切な価格転嫁が求められているところです。

持続可能な建設業を実現するため、政府は第三次担い手3法(2024年改正)を成立させました。その一つが「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」(改正建設業法・入契法)です。

改正建設業法は、2024年9月、12月、2025年12月と段階的に施行されましたが、その改正には大きな3つの柱があります。それが下表となります。

改正建設業法の主な改正点と施行スケジュール

改正建設業法は「3つの柱」に沿って段階的に施行されてきました。主な改正点と施行スケジュールを下表の通り、整理しました。

上表通り、改正建設業法は完全施行されました。2025年12月12日に施行されたのは、建設業者が取引を適正化し、持続的な賃上げへとつなげるための3つの禁止規定です。

1.著しく低い材料費等の見積り等の禁止

2.原価割れ契約の禁止を受注者にも導入

3.工期ダンピング対策の強化(著しく短い工期による契約締結を受注者にも禁止)

改正点に関するより具体的な内容は次項で解説していきます。

建設業法・入契法改正の具体的な内容

1.労働者の処遇改善

労働者の処遇改善では、2024年9月から中央建設業審議会が「労務費の基準」を作成し、発注、受注における労務費を確保するよう勧告を行いました。

加えて、2024年12月改正で「労働者の処遇確保」を建設業者に努力義務化し、国が取組状況を調査・公表し、中央建設業審議会に報告する仕組みを制度化して徹底が進むようにしています。

■著しく低い材料費(労務費)等による見積りや見積り依頼の禁止(2025年12月施行)

建設業界では、資材価格の高騰分が工事費に適切に転嫁されず、労務費を圧迫することが大きな課題となっています。

改正建設業法では、建設業者は、材料費、労務費、適正な施工を確保するために不可欠な経費の内訳を記載した見積書を作成するよう努めなければならないと定めています。

この見積書の努力義務は、元請ー下請間、下請ー下請間、発注者ー元請間いずれについても対象となります。

これまでは、技能者の労務費相場が不明確で、労務費の削減につながったため、中央建設業審議会で「労務費の基準」を作成・勧告できることになりました。「労務費の基準」に照らし、著しく低い労務費等で見積を依頼した発注者は、国土交通大臣が勧告・公表を、著しく低い労務費等で見積を提出した受注者を指導・監督をすることになりました。

■原価割れ契約の禁止を受注者にも導入(2025年12月施行)

従来の建設業法では、発注者がその取引上の地位を不当に利用して、通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金とする契約を締結することを禁止していました。改正建設業法では、原価割れ契約の禁止を受注者にも拡大適用しました。

2.資材価格高騰による労務費のしわ寄せ防止

資材価格の高騰や資材不足といったリスクの負担がこれまで受注者に偏ってきたために、改正建設業法では、資材高騰に伴う請負代金等の「変更方法」を契約書の法定記載事項としました。

また、労務費へのしわ寄せを防ぐため、資材高騰が生じるおそれがあると認めるときは、請負契約の締結をするまでに、受注者から注文者に対して関連する情報(「おそれ情報」)を必要な情報として通知しなければならないこととしました。

実際に資材高騰が生じたときは、受注者から注文者に対して「請負代金の変更協議」を申し出ることができ、注文者は当該協議に誠実に応じるよう努めなければならないこととなります。これらにより、価格変更協議が促されることとなります。

「おそれ情報」の対象となる事象について

おそれ情報の対象となる事象としては

(a) 主要な資機材の供給の不足若しくは遅延又は資機材の価格の高騰

(b) 特定の建設工事の種類における労務の供給の不足又は価格の高騰

であって、天災その他自然的又は人為的な事象により生じる発注者と受注者の双方の責めに帰することができない事象が挙げられます。

一例として、(a)であれば、自然災害により特定の資材の工場が被災したことで資材の需給バランスが崩れ価格高騰に繋がりうる場合、(b)であれば、特定の種類の工場の建設需要が急激に増加し、当該種類の工場の建設に不可欠な専門工事を担当する技能者の獲得競争が発生したことで労務費の上昇が生じ、請負代金の変更に繋がりうる場合などが考えられます。

「おそれ情報」の通知方法について

おそれ情報の通知にあたっては、おそれ情報とあわせて、当該事象の状況の把握のために必要な情報(以下「根拠情報」という。)を通知することが必要です。

根拠情報としては、建設工事の受注予定者が通常の事業活動の範囲内で把握できる客観的な情報を用いる必要があり、メディアの記事、資材業者の記者発表、公的主体などにより作成・更新された一定の客観性を有する統計資料などがこれに該当します。

通知する際には、見積書の交付時などにあわせて行う必要があり、おそれ情報を発注者が確認したことを記録するため、通知書面やメール等を受発注者双方が保存しておくことが望ましいものと考えられます。

3.働き方改革と生産性の向上

働き方改革=工期ダンピング対策の強化(2025年12月施行)

建設業で働く人の長時間労働を改善するためには、適正な工期設定を行う必要があります。工期不足の場合の受注者の対応として、「作業員の増員」に次いで多いのが「休日出勤」や「早出や残業」となっており、長時間労働の要因となっていることがわかります。

従来の建設業法では、「注文者は、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間を工期とする請負契約を締結してはならない」と規定してきました。

改正建設業法は、2024年から開始された、間外労働の上限規制に対応することを前提に、工期ダンピング対策を強化し、禁止規定を受注者にも導入します。

つまり受注業者が自ら長時間労働を前提とした非現実的な工期を受け入れることを禁止するものです。

中央建設業審議会も、適切な工期設定を促すため「工期の基準」を作成し、勧告します。

受注者は契約前に、資材が入手困難になる等の「おそれ情報」を注文者に通知する義務を負いますが、通知をすることにより、注文者に工期変更の協議を申し入れできることになり、注文者は誠実に「工期変更協議」に応ずる努力義務を負います。(注文者が公共発注者である場合は義務となります。)

ICTを活用した生産性向上

工事現場にICT活用により、遠隔施工管理などができる場合で、兼任する現場間移動が容易な場合には、監理技術者(主任技術者)等の専任規制を合理化して、複数現場を兼任することができるようにしました。

またICT活用で施工体制が確認できる場合には、公共発注者への施工体制台帳の提出義務を合理化しました。

特定建設業や公共工事等で、受注者が多くの下請け業者を使う場合、発注者・元請・下請間で設計図書や現場写真などのデータ共有ができるようにするなど、効率的な現場管理を努力義務化しました。

まとめ

国土交通省は、改正建設業法の全面施行に合わせて、2025年12月12日に建設業法施行令を改正して施行し、国土交通大臣等の勧告の対象となる請負契約に係る建設工事を施工するために通常必要と認められる費用の額の下限について、500万円(建築一式工事である場合においては1,500万円)と定めました。

これは小規模な工事発注のみを勧告の対象外として、以外は全対象とする規定となります。

2025年12月12日に全面施行となった改正建設業法を中心に解説しましたが、近年の建設業の動きは、「施行スタート」ではなく、法改正公布と同時に契約方法やICT施工の導入、労務費基準の作成、勧告体制、協議体制等の整備等が迅速に進行されており、段階的な施行日に合わせて改正体制の実現に向けている点に注目していく必要があります。

法改正公布以降、工事費への価格転嫁や建設労働者の働き方改革が順調に進んできた一方で、資機材費高騰や技能労働者の確保が困難となったことを要因として、大規模再開発プロジェクトの延期や工期見直し、中止等が相次いでいることも、現代建設業のトレンドとなってきた感があります。

 

(本記事は、総合資格naviライター kouju64が構成しました。)