戸田建設が2026年1月、長崎県五島沖で「浮体式洋上風力発電事業」を本格稼働開始!【業界研究】
持続可能な社会を目指すうえで、「再生可能エネルギー」は重要なテーマの1つです。
国際社会においては、世界中で国や地域ごとの特性を最大限に生かしながら、様々な発電システムが検討されています。
そのなかで、建設各社は洋上風力発電を成長市場と捉え、SEP船(自己昇降式作業台船)などの設備投資や技術開発を進めてきました。ゼネコン各社の中期経営計画を参照しても、清水建設、五洋建設、鹿島、大林組、東亜建設工業などが大型SEP船を建造・導入し、施工能力を強化していることがわかります。
日本は周囲を海に囲まれ、世界6位の海洋面積(約447万㎢)を持っています。海の上に風車を設置し、風の力で電気を作る洋上風力発電は、日本にとって再生可能エネルギーの主力電源として期待されているのです。
2025年8月、日本の洋上風力発電に「三菱商事撤退」の衝撃
2025年8月、三菱商事は秋田県沖と千葉県沖の3海域で進めていた洋上風力発電事業からの撤退を発表しました。政府が日本で初めて大型洋上風力発電開発案件の公募を実施して運営事業者を募り、三菱商事連合が2021年12月24日に、競合よりも破格な安さで落札していた事業計画でしたが、世界的なインフレや円安、資材費・人件費の高騰で建設費が当初の2倍以上に膨らみ、採算が取れなくなったためです。
三菱商事は、事業撤退で522億円の損失を計上し、ペナルティとして約200億円の保証金が国に没収されることになりました。この撤退は「三菱ショック」と呼ばれ、日本の再生可能エネルギー戦略に大きな波紋を広げています。
三菱商事連合の計画については、落札当時から実現を疑問視する声が上がっていました。官民が洋上風力の建設コスト負担の重さを見誤り、導入の大幅な遅れを招く結果となりました。持続的な洋上風力インフラを普及するには、政府も国民も脱炭素がコストのかかる戦略なのだという現実から目を背けず、制度のあり方を問う必要があります。
政府が2025年2月に閣議決定したエネルギー基本計画は、発電電源に占める風力発電の割合を現在の1%から、2040年度に4~8%まで伸ばす方針を示しています。
第1弾プロジェクトから事業者撤退が決定したことは、日本の洋上風力発電導入に遅れをもたらし、再生可能エネルギーを主力電源に育てる政府の計画や風車のサプライチェーン(供給網)育成にも打撃となりかねません。
全世界的にも、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーや物流の危機による影響が大きく、世界の洋上風力発電事業は大幅な縮小や断念を迫られたのです。
世界が注目、日本初の浮体式洋上発電所が1月から本格稼働
洋上風力発電では、海底に支柱を立てて風車を設置する「着床式」が先行し、すでに世界でも主流になっています。
しかし、着床式では水深約60m以下の浅い海にしか設置できないという制約があります。日本周辺の海は浅瀬が少なく、台風や地震のような自然災害も多くあるため、着床式では設置計画が難しい面がネックとなってきました。
こうした中、戸田建設は、「浮体式洋上風力発電事業」に率先して取り組んできたのです。海底に基礎を設置せず、海に浮かべる「浮体式」は、支柱が届かない深い海にも設置できることに加え、海岸線から離れて沖へ設置するため、強い風が吹いていることが多く、発電にも有利に働きます。
そこで戸田建設は、京都大学(当時)と共同で「ハイブリッドスパー型」と呼ばれる新しい浮体式洋上風力発電設備を開発しました。
ハイブリッドスパー型はコンクリートと鋼で作った巨大な円筒形の浮体構造物を、釣りで使用するウキのような形で垂直に海に浮かべ、その上に、発電に使う風車とタワーを設置し、浮体構造物全体を3本の長い鎖で海底につなぎ、流れていかないように固定します。シンプルな構造なので、標準化や量産化、低コスト化に有利な上、深い海に適し台風にも強く、地震の影響を受けにくいため、深い海に囲まれた日本の海洋環境に向く画期的な洋上発電設備として、世界の注目を集めています。
2018年、「再エネ海域利用法」が成立し、長崎県五島市の海域で、国内初の浮体式洋上発電事業へのチャレンジとなる、「五島市沖洋上風力発電事業」を開始しました。
戸田建設はENEOSリニューアブル・エナジー、大阪ガス、INPEX、関西電力、中部電力との共同出資により、「五島フローティングウィンドファーム合同会社」を設立、2022年8月から海上で工事をスタートしました。
五島市の福江島から7kmほど沖合に、ハイブリッドスパー型の洋上風力発電設備を4kmにわたって8基浮かべ、その設備全体を「五島洋上ウィンドファーム」と名付けました。
「五島洋上ウィンドファーム」では、2025年中に試運転や各種試験を実施してきましたが、いよいよ2026年1月から発電事業を本格的に開始する計画です。
発電した電気は、九州電力の送電設備を通じて五島市の住民に供給されます。
浮体式洋上風力発電が五島市電力需要の8割を賄う
戸田建設が、浮体式洋上風力発電の開発を開始したのは、2007年という早い時期からでした。
2013年には、2MW級の実証機「はえんかぜ」を長崎県五島市沖に設置し、実証試験を経た後、2015年度以降は、実用機「崎山沖2MW浮体式洋上風力発電所(はえんかぜ)」として発電を開始してきた実績を持つのです。
実証試験期間中には、大型台風の接近も複数回経験しており、台風への耐性も実証が進みました。
実証事業では、洋上風力発電設備が漁業や生態系へ与える影響などについて、地元漁協と連携し段階的に調査・検証を行っています。また、浮体の部材の多くは、五島市や長崎県内で現地調達され、地元建設会社や造船所など地域企業も事業参画しており、地域活性化につながっています。
実用機の発電実績を受けて、戸田建設は「はえんかぜ」とは別に、五島市沖に2.1MW級風車8基からなる、合計16.8MWの「五島洋上ウィンドファーム」を建設しました。当初予定から2年遅れましたが、いよいよ2026年1月から商業運転を開始すると、五島市の電力需要の8割を発電供給可能となります。
浮体式洋上風力発電設備は、船舶安全法上、船舶として扱われるため、船名が必要になります。本事業では、「かぜてらす」「かめりあぶりーず」「ぎばるかぜ」など、8基の風車の名称はすべて五島市と新上五島町の小中学生による公募で命名されました。
大電力を生む「浮体式風車」は巨大な構造体
五島洋上ウィンドファームを構成する8基の浮体式洋上風車は、五島市の福江島崎山漁港の沖合約7㎞に設置されていますが、水深は約130m~140mの海域にあり、発電出力は1基あたり2.1MWで、基礎浮体部からブレード(羽根)先端までは、全長約176mに達する巨大構造物です。
直径が7.8mあるコンクリート製の巨大なリングを複数つくって接合したコンクリート浮体部に、鋼製の浮体部やタワーを結合すると、全長約130mの巨大な浮体構造が完成します。この建造作業は、五島市の建設会社が参画して設置された下大津町浮体建造ヤードで進められました。
浮体構造を海へ運ぶ方法にも、独自の技術が使われており、「FLOAT RAISER(フロートレイザー)」と呼ばれる全長110mの半潜水型スパッド台船に、重量約2600tの浮体構造を搭載し、波のおだやかな海域まで運びます。
組立海域でフロートレイザーの内部に海水を注入すると、フロートレイザーの甲板内が重くなって海中に沈み、浮体構造だけが海面に浮いた状態になります。
それをフロートレイザーから引き離し(フロートオフ)、浮体内部にポンプで海水を注入すると、中空の下部浮体がどんどん重くなり、重さのバランスによって浮体構造全体が、釣りで使うウキのように立ち上がってきます。浮体構造が垂直に立ったら、その上にナセルとブレードを設置して風車が完成です。
戸田建設技術チームが考案したこの工法は、世界的にも極めて珍しいものです。
出来るだけ陸上で浮体を構築する工程を増やし、組立海域での作業を少なくすることが重要です。
浮体建造ヤードでは、長崎県内や五島市内で部材を調達・建造し、浮体のコンクリート部と鋼製部およびタワーを接続するところまで実施します。また、海上で重量物を吊り上げるクレーン作業は施工精度や安全性において難易度が高く、コストにも影響が大きいことから、浮体を海に浮かべる作業においては、先に示した半潜水型台船(フロートレイザー)を利用した方法を採用しています。
これらの工夫は、地元関係者との連携により実現したもので、低コストや量産化が期待できる工法です。
まとめ
風力発電は、これまで沿岸部など陸上設置が進んできましたが、周辺への騒音や自然環境、野鳥など生態系に与える影響が問題とされることもあり、日本では今後の再生可能エネルギーの推進策として洋上風力発電が有力視されています。
世界の洋上風力発電設備は、年々規模が大型化しており、五島洋上ウィンドファームでは、1基の出力が2.1MWですが、世界の主流はすでに15MWに移っており、その先20MWも視野に入っているといわれます。
ただ日本では台風が頻発することもあり、また着床式設置が可能な浅瀬が少ないなど、海洋環境に合った方向性を模索して実現していくことが重要です。
五島洋上ウィンドファームは、実用化までに多くの実証を積みました。浮体の耐力不足が判明したことによる設計変更等で、予定より2年遅れた経緯もありますが、産学連携や地元建設業との開発連携により、特殊工法が採用され、市の電力需要8割を賄う規模で商業運転開始を迎えることができました。
今後は発電事業運用と運用面、技術面の情報フィードバックにより、今後、続いていく国内洋上風力発電プロジェクトの技術開発に貢献していくことが期待されます。
(本記事は、総合資格naviライター kouju64が構成しました。)





