建築設計を志すあなたへのガイダンス 第1回「どこで働くか?職場による仕事の違い」【建設業の仕事】

「建築設計の仕事に就きたい」と考えていても、その思いを行動に移すタイミングは人によって異なります。最初から設計職を志望して建築学科を選ぶ人もいれば、授業や演習を通じて次第に将来の仕事として意識するようになる人もいます。

本記事は、ガイダンスシリーズの第1回です。

建築設計職を目指す学生に向けて、「職場による仕事の違い」を軸とした解説を行い、「就活のポイント」についても紹介していきますので、ぜひご一読ください。

設計職の働き方や就活の進め方は「職場」によって異なる

ひと言で「設計」といっても、職場によって仕事内容や必要なスキルは異なります。

本記事では、建築学生が就職先として考えることの多い4つの職場、「組織設計事務所」「アトリエ設計事務所」「ゼネコン設計部」「ハウスメーカー・工務店」の特徴や働き方、就活を進めるうえでのポイントを紹介します。

将来のキャリアを考える際に、「どんな建築をつくりたいか」や「自分に合った働き方は何か」を知ることはとても重要です。

本記事が、皆さんが自分にぴったりの進路を見つけるヒントになれば幸いです。

組織設計事務所の特徴と働き方・就活のポイント

組織設計事務所は、自社に「意匠・構造・設備」など各部門を有し大規模で公共性が高いプロジェクトを分業・協働体制で進めていく設計事務所です。

安定した高給与環境で専門性を追求でき、コンペや大規模案件に携われますが、分業制のため総合力やコミュニケーション力が必須となります。

■組織設計事務所の特徴

1.大規模プロジェクト

公共施設、超高層ビル、病院、大学、再開発など、社会的な影響力の大きいプロジェクトを手掛けています。

2.分業体制

所員100人から数千人規模の大手事務所が多く、意匠、構造、設備部門が分かれており、各部門の専門家がチームを組んで分業で設計を進めていきます。

3.安定性と高給与

経営が安定しており、給与水準が高く、福利厚生が手厚い。

4.技術力と教育体制

高い設計技術があり、一級建築士の取得補助などが手厚い傾向がある。

■働き方の特徴

1.役割分担と協働

担当業務は部門ごとに分かれ、多くの関係者が連携協働でプロジェクトを推進します。

2.勤務体制

コンペで案件受注するため、締切り前は忙しくなりますが、ワークフローがしっかりしていて残業や労働時間も管理されていることが多い。

3.チームワークと調整力が求められる

若手でも大規模プロジェクトに携わり、チームワークの経験を積みやすい。

■就活のポイント

1.ポートフォリオを充実させること

公共建築作品を中心に、論理的な設計プロセスや技術的な知識を見せられるようにポートフォリオを充実させることが必要です。

学生コンペ入賞作品は、入賞評価でポイントとなった点を整理して、ブラッシュアップしておくとよいでしょう。

2.専門性と協調性をアピール

設計力に加えて、計画、法規、構造などの基本知識が求められます。

専門知識をベースとしてチームワークに対応できる点を強調すると評価は高い。

自分の意見や設計案に固執するタイプはマイナスに見えるので柔軟性を示すこと。

3.早期対策が必要

本選考が早く、競争も激しいため、アルバイトやインターンシップなどを通じて、早期選考に備える必要があります。

4.ES・面接対策

求める人材の傾向等を把握し、志望動機やキャリアプラン、自己PRを明確にしておくこと。

正攻法で勝負することを心がけた方が良く、OB訪問が有効です。

大規模プロジェクトを動かすマネジメント力や円滑なコミュニケーション力が高評価されますが、設計力や設計に必要な建築知識を修得していることが必須となります。

アトリエ設計事務所の特徴と働き方・就活のポイント

アトリエ設計事務所は、著名な建築家のもとでデザイン性の高い住宅や小規模物件を手掛ける事務所が中心です。

所員は比較的少人数で、主体的な意匠提案が求められ、若手も早い段階から全体を統括する経験が積めますが、長時間労働や低賃金の傾向があります。

■アトリエ設計事務所の特徴

1.個人色の強い意匠デザイン

主宰する建築家の思想が色濃く反映された、個性的・芸術的な建築を追求します。

2.小規模・住宅中心

全国から個人住宅や小規模な施設、店舗の案件を受注している事務所が多いです。

但し、近年は図書館や保育園、コミュニティ施設、駅前広場、集合住宅など公共建築コンペに応募して採用される実績を積み重ねる事務所も多くなっています。

3.少数精鋭

所員は少数精鋭で各自がプロジェクトを主幹し、設計から監理まで担当者が全工程に携わります。要所で所長に判断を仰ぎますが、指示を待たず主体的に動けることが求められています。

■働き方の特徴

1.一気通貫でプロジェクトを担当する

企画から設計・監理まで一貫して関わることが多く、若いうちから大きな責任を任されて成長するチャンスが得られます。

2.業務は多岐にわたりハード

少数精鋭で各自がプロジェクト責任者として取組むため、提案準備、模型づくり、現場対応など業務量が多くなり、長時間労働になりやすい傾向があります。

但し、竣工を迎えると次プロジェクト開始まではサポートに回るなど、業務量に波があります。

3.独立志向が基本

将来、独立して自分の事務所開設を目指す人が集まる環境です。

「入所5年で独立」「資格取得後は独立」と決めている事務所もあります。独立する夢を実現する場であるからこそ、アトリエ事務所の働き方に順応できるのです。

アルバイト管理や後輩所員に業務対応させるなど、人の使い方なども学んでいきます。

■就活のポイント

1.ポートフォリオが重要

自己紹介と自信作3作品を各5~10ページ程度で構成した高品質なポートフォリオを作成します。

コンペに応募して得られた入賞実績をポートフォリオに記載します。

施主にプレゼンする視点で構成したポートフォリオの完成度が採否の判断基準として大きく、「この子と働きたい」と思わせる人柄や熱意の伝え方がカギになります。

2.オープンデスク・インターン経験が必須

新卒でも即戦力として採用する方向性です。実務経験を通して実力や人脈から採用に繋がる可能性が高く、オープンデスクやインターン経験は必須です。

3.直接応募

希望事務所のWEBサイトやSNSから直接応募します。定期的に採用していない事務所が多く、公開されない求人もあります。人脈を通じて直接コンタクトを取ります。

OB訪問や展示会、オープンハウスの場で接点づくりすることも重要です。

4.実務スキル提示

即戦力を求めているので、CAD、BIM、3Dモデリング(Rhino, SketchUp)、レタッチ(Photoshop, Illustrator)のスキルを明確に示すことができるとポイントが高いです。

オープンデスクが早道となるのは模型制作やパース制作などを担い、経験やセンス・スキルが評価されて、「今度、社員応募しませんか?」と声が掛かるからです。

ゼネコン設計部の特徴と働き方・就活のポイント

ゼネコン(総合建設会社)では設計部門と施工部門が社内で連携する「設計施工一貫」が特徴となります。

意匠だけではなく材料・構造・設備・施工法など「実際につくる」視点を、企画や基本設計段階から持つことが最大の特徴です。

■ゼネコン設計部の特徴

1.設計施工一貫が強み

自社で施工まで行うため、現場(施工管理)や積算、営業部門と連携を密にします。

最新工法や材料を採用して、コスト管理や工期の実現を追い、自分の設計が形になる過程を間近に体感できることが醍醐味です。

2.大規模で多様なプロジェクトに関わる

超高層ビルや大規模商業施設、物流倉庫などスケールの大きな案件に携わる機会が多いのが魅力です。近年は公共建築のデザインビルド案件も増えています。

3.給与・待遇・福利厚生がよい

総合建設業の花形は施工管理職といわれますが、同じ会社の設計部門も給与体系や福利厚生は基本的に同じです。大手では30代で1000万超えは珍しくありません。

■働き方の特徴

1.現場連携や営業連携が多い

工事受注を仕掛ける営業部門や施工部門と連携して、施主に対して高品質な建築設計と技術提案、見積り提示をしてともに受注を働きかけます。

2.収益の柱は施工部門

ゼネコンの本業は工事請負です。収益は施工を通して確保している点が組織設計事務所等と大きく異なります。企画段階から施工性やコストを重視した設計を行います。

3.現場支援業務が多い

実施設計や施工図の比重が大きく、現場に出向いて支援業務を行うこともあります。

■就活のポイント

1.総合建設業への理解と人物本位

設計者もゼネコン(総合建設業)の一員です。総合建設業が抱える課題や自社の方針を理解していることが重要です。設計事務所に比較すると、コンペ入賞実績や設計力以上に、組織の一員として貢献できる人物かどうかが重視されています。

ポートフォリオも準備しますが、人物本位が重視される評価傾向が強いということです。

2.設計希望は少数枠になる

ゼネコンは施工管理職を多数採用していますが、設計職はごく少人数の採用枠となります。そのため就活では設計職応募であることを強くアピールすることが重要です。

設計職は競争も激しく、本選考時期が早いのでインターン参加は重要です。

3.構造・施工について勉強しておくこと

ゼネコンでは構造形式や施工法も多く扱いがあり、基本知識を持つことが必要です。内定・入社に合わせて、一級建築士受験研修をする企業が多く、学習開始もアピールポイントになるでしょう。

4.インターンシップと推薦制度

ゼネコンは全国で多人数を採用するため、夏のインターンシップが実質的な選考の入口になることが多く、採用目標を地区ごと、大学ごとに設定していて、大学の推薦枠が強力な企業もあります。志望企業の採用フローを早めに確認しておきましょう。

ハウスメーカー・工務店の設計職 特徴と働き方・就活のポイント

ハウスメーカー・工務店の設計職は、「顧客と直接やり取りしながら設計する」スタイルが多く、営業と連携して進めるため接客的な要素が強くなります。

■ハウスメーカー・工務店 設計職の特徴

1.住宅建築の要として自社商品を設計する

ハウスメーカーでは独自工法・構造に基づく規格型住宅の設計が主となります。

そこで間取りや天井高、建材なども自社規格に沿った「自社商品」を設計します。

一方、地域工務店では在来工法による自由設計(注文住宅)が中心となります。

設計だけでなく営業やインテリア提案、営繕(リフォーム)まで幅広く手掛けることが多くなっており、価格や設計の自由度が高いことを「自社の商品力」とします。

2.図面以外の仕事も多い

敷地調査、間取り・デザイン提案、CADによる図面作成、法規・コスト・施工性の確認など、設計図面の作成以外に仕事が多く、また顧客は幾つかの業者から提案や見積り提示を受けて最終判断をするため、受注獲得するための商談やプレゼンが最も重要な業務となります。

3.顧客(施主)と距離が近い

顧客から直接要望を聞き設計提案を行います。顧客にとっては一生に一度の大きな買い物を形にすることになり、「お客様の要望より良い提案」をして、直接顧客から感謝の言葉をもらえる仕事であることが最大の醍醐味です。

■働き方の特徴

1.土日祝日も仕事であることが多い

営業職とともに、土日祝日は相談会や打合せで出勤が多く、平日に休日を取るスタイルが一般的です。残業は繁忙期に集中しがちですが、分業制の大手は調整しやすい環境も整いつつあるようです。

2.管理職としてのキャリアパス

設計職も専門職ではなく、部門のマネジメントや大型プロジェクトの統括など、管理職として活躍するキャリアパスが一般的です。

大手では総合職として、商品開発や人材管理、採用・研修など多様な職種を経験していくスタイルもあり、建設業の中では女子社員比率が高いためにダイバーシティの取り組みも進んでいます。企業ごとに実際を確認していきましょう。

3.建築以外に求められる知識

建築設計以外に、宅建士取得(不動産の知識修得)を求められたり、インテリア・構造、福祉住環境の知識が職務に活かせたりします。

■就活のポイント

1.第一印象と対人スキルが重要視される

顧客に好感を与える明るい笑顔や姿勢、マナー所作、話し方など、「この人ならお客様に好かれて、信頼してもらえるだろう」と第一印象から感じさせることが重要視されます。

自社に合わせたマナーなどは研修で徹底していますが、まずは第一印象や対話から感じられる人柄、話し方、顧客に寄り添う姿勢や考え方などの評点が高くなります。

2.経営計画や企業方針をよく理解すること

個人住宅の販売を経営の根幹に据えながらも、少子高齢化による人口・世帯数減少により、新設住宅着工戸数は伸び悩んでいます。

住宅関連企業も非住宅建築への展開や海外進出、不動産開発など経営の多角化が進んでいます。主力の住宅部門でも環境性能や省エネ性能が進んだ新商品の開発や、中古住宅市場・リフォーム市場への進出など、各社が戦略を立てて経営計画として示しています。

企業研究では、数年先までの経営戦略や今後10年、15年を見据えた将来展望、そして中期経営計画に対する直近の達成状況などを確実に読み取っていきましょう。

3.設計職としてどう活躍できるか確認すること

高品質な規格住宅を主体とする大手ハウスメーカーや、自由設計を中心とした工務店、安価に建売住宅を供給するパワービルダー、集合住宅を得意とするサブリース業者など、事業形態や主力商品によって、設計職が担う役割や設計内容が変わってきます。建物の主要構造部による設計の違いもあり、自分の家づくりへの想いや、関わりたい設計業務と企業実務のマッチングは重要です。

4.インターン・座談会の活用

住宅関連企業の多くが、自社の経営理念や商品の強みなどを知ってもらうために、インターンシップや座談会、説明会を積極的に開催しています。

職場の雰囲気や残業の状況、設計の自由度等も直接確認できる機会となるため、活用していきましょう。参加を選考条件とする企業もあります。

5.人物本位の採用で決め手はプレゼン力

業界人同士の交渉が主となるゼネコンや、建築に対する知識・興味が深い顧客に対応する設計事務所とは異なり、住宅関連業界では一般顧客への接客応対を重視しています。

対話を通して潜在的なニーズを引き出し、技術的な内容を分かりやすく説明するコミュニケーション力や、顧客の課題を解決する提案を、短時間で的確に伝えられるプレゼン力などが重視されます。

まとめ

大学や専門学校などで行われている設計演習を通して、将来の仕事として設計職を意識し始める時期は人によって異なります。反面、設計課題に向き合うなかで、「自分には建築家として成功する才能はないかも」と思い悩む人もいます。

設計職といっても、その働き方や求められる力は本当にさまざまです。また、少子高齢化と人口減少、働き方改革、AIの進化など、社会の変化によって設計職のあり方や建築設計の手法は少しずつ変化が求められているように感じています。

実務設計は、自分が主役になって作品を評価してもらう仕事ではなくて、施主の要望や建築に対する夢・希望を、設計を通して実現する仕事です。

自分が「どんな建築を、誰のために、どのように設計したいか」を中心に考えることで、自分に合った設計の道を見つけていくことが大切です。

本記事がその一助になれば幸いです。総合資格ナビは、設計職を目指す皆さんを応援しています!

 

(本記事は、総合資格naviライター kouju64が構成しました。)