首都直下地震の被害想定を12年振りに更新!政府発表に対し、東京都も見解を公表!【建設業界NEWS】
2025年12月19日、政府は「首都直下地震の被害想定と対策について」と題した報告書を公表しました。
2015年に実施した首都直下地震対策の基本計画策定から10年が経過し、防災対策の進捗状況や建設費高騰などの情勢変化を踏まえて、新たな被害想定や防災対策の見直しを行ったものです。
また、この公表に対して、同日、東京都も見解を発表し、政府報告に対して一部異議を唱えました。本記事では、これらの内容について概要を解説します。
新被害想定は12年振りに更新、経済被害は約83兆円
「首都直下地震の被害想定と対策について」をまとめたのは、政府の中央防災会議に設けた「首都直下地震対策検討ワーキンググループ」で、前回想定の2013年から12年振りに更新された報告となりました。
首都直下地震は、「30年以内に70%程度の確率」での発生が予想されていますが、今回の被害想定は、首都中枢への影響が最も大きいとされる「都心南部直下地震」タイプで行われました。具体的には、都心南部を震源としたマグニチュード7.3クラスの地震が冬の夕方に発生した場合の被害を想定しています。
下図は、「都市南部直下地震(M7.3クラス)」が発生した場合の震度分布図です。
前提となる、M7.3クラスの都心南部直下地震が発生した場合に、この震度分布図では、首都圏の広範囲で震度6強、湾岸部一部で震度7の揺れが発生すると予測されています。
下表は前回2013年想定と今回の新被害想定の各項目を対比表としてまとめたものです。
本表被害想定において、建物被害は約11万2000棟が揺れで全壊し、約26万8000棟が火災で焼失すると試算されています。
全壊・焼失建物はすべてを合計すると40万2000棟に及び、2013年想定よりも約20万棟少なくなります。
これは、2013年想定以降、住宅・建物の耐震化(2023年時点で約90%)が進んだことや、揺れを感知して電気を止める感震ブレーカーが普及(2024年時点で約20%)してきたことを反映した被害想定となっているためです。
死者数は前回想定の2万3000人から約1万8000人へ5000人減少しましたが、2015年に定めた「首都直下地震緊急対策推進基本計画」が目標とした、「10年間で半減」には届きませんでした。
災害関連死者数が約1万6000人~4万1000人、帰宅困難者が約840万人に上ると推計するなど、依然として人的被害は大きく、工場損壊や流通網の壊滅などによる経済被害は総額約83兆円という、甚大な被害規模が明らかになりました。
下表は、今回想定された、人的被害・建物被害をまとめたものになります。
首都直下地震対策検討ワーキンググループの報告書では、今後の取組みで、2023年時点で90%にある、現行の耐震基準を満たす住宅の割合を100%達成すると、揺れによる全壊を11万2000棟から1万5000棟に減らせるとしています。
また感震ブレーカーの設置率を、2024年度の20%から100%にすることで、焼失棟数は現状の26万8000棟から7万4000棟に減少し、火災による死者数は、1万2000人から3400人に減らせるとしました。
直近の建設費高騰が地震被害額に与えた影響は?
報告書において、経済被害総額約83兆円としたことに関しては、2013年想定の約95兆円と比較して減少しているものの、想定する建物被害は、建物の全壊・焼失棟数を2013年想定の約61万棟から、約3割少ない約40万棟に減少したにも関わらず、被害額は約30兆4000億円から約30兆円とほぼ横ばいとなる試算をしており、被害額が下がらない要因は、資材価格や労務費の上昇による、近年の建設費高騰が影響しているとしています。
上下水道については、下水道は支障人口が2割増えて最大約200万人になり、被害額も3割弱増えて約9000億円に達し、上水道では断水人口が最大約1400万人と40万人減ったものの、被害額は約3000億円と1000億円増加しています。
その他、道路、鉄道、港湾については東日本大震災の被災状況を基に被害想定の手法を見直し、軒並み被害額を前回よりも多く見積もった報告としています。
下表は、首都直下地震による交通施設インフラの被害個所数、被害額想定をまとめたものです。
道路施設は被害箇所数が計約1万900カ所で、うち高速道路約80カ所、指定区間の一般国道約260カ所、指定区間外の一般国道や都県道など約1万600カ所と想定しました。
2013年想定では、高架橋を含む橋梁被害のみに着目したのに対し、今回は路面の損傷・沈下や法面崩壊も視野に入れた結果、想定被害額は3倍増の約3000億円に上る報告となっています。
鉄道施設は、想定する震度分布を見直した上、新たに線路変状や路盤陥没を想定の対象に加え、2013年想定で1000億円未満だった想定被害額が約1000億円に増えました。
港湾施設では岸壁の他に「その他係留施設」の被害を想定対象に加えるなどした結果、2013年想定の約8000億円が約9000億円に増える結果となりました。
政府報告と同日、東京都が見解を発表し異議を唱えた
政府ワーキンググループの報告書に対して、東京都は同日となる、2025年12月19日に『「首都直下地震の被害想定と対策について」に対する都の見解』を発表しました。
この見解のなかでは、政府報告の一部に対する異論を含んでおり、都の防災計画課によると、公表した異論はワーキンググループの会合でも主張してきたが、報告書に反映されなかったため、公表に踏み切ったとされます。
小池百合子都知事も同日の定例会見で、ワーキンググループの被害想定の一部を「首都圏の実態を十分に反映したものではない」と批判しました。
これら異論に関しては、要約を記載しますが、東京都が全国をリードして、インフラの計画的な維持更新、対策のレベルアップや前倒しにより、住宅や上下水道の耐震化率で全国を上回る水準とし、災害時の給水安定性向上のために、導水施設の二重化や送水管のネットワーク化によるバックアップ機能の確保など、過去10年間で大幅に改善してきた実態が被害想定に十分盛り込まれていないという主張が主体となっています。
下図は東京都が令和4年(2022年)に公表した、東京都による10年間の減災への取組みおよび改善の状況です。今回の見解において、改めて資料として報告がなされました。
さらに国は首都機能に甚大な被害が生じた場合に備えて、立川に総合的な防災基地を整備するとしていますが、東京都は都庁の防災センターの代替施設となる「立川地域防災センター」を設置し、国や自衛隊、警察、消防等の各機関と連携し、高度な応急対策等を実施できる体制を確保しているとしています。
【東京都の見解・要約】
1.電力に関する検証や対策は、国が主体的に推進すべき
火力発電所の復旧期間目安を約10年前の資料を基に算定していることに異議を示し、「電力は、国のエネルギー政策の大きな要素であるとともに、その供給や需給バランスの確保は自治体の枠を越えた広域的な課題」であり、「首都直下地震発生時の電力需給については、国において、広域的な観点で十分に検証すべき」、「国は、事業者と連携しつつ、火力発電所の被害低減など、必要な対策を行うべき」と批判しました。
2.災害関連死の算定根拠は不十分
「災害関連死者数は、都市構造や医療資源などの地域性等によって大きく変動するため、今回の国の算定は、首都直下地震時の数として根拠に乏しい」、「自治体の対策に繋がるよう、国において更なる分析が必要」としました。
ワーキンググループが東日本大震災や能登半島地震の震災被害実績を基に算定を行ったことに対して、阪神淡路大地震や熊本地震との差異を挙げ反証しています。
3.本WGの目的から外れた記載は不適当
国の報告書として、防災対策として、二地域居住の定着促進を報告書に記載し、東京圏への一極集中緩和に関する国土政策を盛り込んだことに対して、「二地域居住は、個人の希望に応じて選択すべきものであり、広域避難先の確保や要救助や帰宅困難者等の発生量の抑制等、防災対策を目的として促進することは不適当」、「本WGは、防災対策の進捗状況の確認や被害想定の見直し、新たな防災対策の検討を行う目的で設置されたものであり、国土政策に関する記載は、WG本来の目的から大きく外れ、国民を誤った方向へミスリードする恐れ」があると批判しました。
東京都は、これら見解に加えて、10年間で取組んだ首都直下地震等への備えに関する進捗状況も公表をしています。
以上、1.2.3.における「」内は、齟齬がないように東京都発表の見解から引用しています。
出典元となる「東京都の見解」は、本記事末尾にリンク先を掲載していますので、ご参照ください。
まとめ
政府は今後、「首都直下地震対策の基本計画」を改定し、2026年度中に設置されることになっている防災庁を司令塔として、首都機能の維持と被害軽減に向けた取り組みを強化していく方針です。
東京都の現状報告も加えて、建設業では想定される被害への備えを推進することや、首都直下地震が発生した場合には、建設物やライフラインなどの復旧工事などに全力で取り組んでいかなければなりません。
中央防災会議 首都直下地震対策検討ワーキンググループが公表している「首都直下地震の被害想定と対策について」は、全123頁に渡る詳細な報告書であり、地震発生についても、「東京圏及びその周辺地域で発生する地震(19種類)」の震度分布を検証しています。
また、東京都が公表した『「首都直下地震の被害想定と対策について」に対する都の見解』についても、全26頁に渡る内容であり、その膨大な情報のすべてを紹介することはできませんが、本記事では、新聞社、通信社、各社の報道も参考に、より重要情報を網羅した解説を目指しました。
東京都としては、防災・減災への取組みの実態と改善成果を公表して、安心・安全な生活や産業、経済の安定と発展に結びつけていきたいところ、政府発表は危機感を募り「首都圏は危険だから、自分ごととして、二地域居住で安全確保してください」という読み取りになりかねない点を批判したものですが、減災対策への取組みや改善の成果が都民に向けて詳しく説明されたことは、大変よいことに違いありません。
今後、政府による新基本計画の策定など、追加情報が公表された際は、再び総合資格ナビで取り上げていく予定です。
国、および東京都の報告書は、下記に関連先リンクとして掲載しますので、興味がある方は、ぜひご参照ください。
関連先リンク:首都直下地震の被害想定と対策について(内閣府)
関連先リンク:「首都直下地震の被害想定と対策について」に対する都の見解(東京都)
(本記事は、総合資格naviライター kouju64が構成しました)






