大規模施設の人流を設計初期段階で予測して可視化するデジタルツール、清水建設が初適用【建設DX】

2026年2月9日、清水建設は設計初期段階でスポーツアリーナなど大規模集客施設の人流を予測し、可視化するデジタルエンジニアリングツール「Shimz DDE Pedex+」を、現在計画中の新秋田県立体育館に初適用したことを公表しました。

このツールの最大の特徴は、設計者自身が通常の設計業務に用いる3次元モデルを用いて高度な人流解析を行い、歩行者の属性まで踏まえた挙動を見える化できることです。

本記事では、清水建設のプレスリリースを参考に、「Shimz DDE Pedex+」の概要や開発の経緯、適用された施設「新秋田県立体育館」を紹介します。

Shimz DDE Pedex+開発の経緯

大規模集客施設の計画では、利用者の安全確保と地域社会に負担をかけないことが大前提となります。それを実現するためには、入退場や施設内を移動する際の混雑緩和に加えて、一斉に退場する際に施設周辺の歩道へ与える影響を緩和するなど、施設内外で滞留や混雑が発生しないスムースな人流制御が求められるのです。

一方で人流解析の内製化は技術的なハードルが高く、従来は設計案が固まった段階で専門コンサルに調査・検討を依頼し、フィードバックを受けていました。

そこで清水建設では、設計初期段階から、設計者自身が通常の設計業務で用いる3Dモデルを使って高度な人流解析を行い、歩行者の属性まで踏まえた挙動を見える化できるツールとしてShimz DDE Pedex+を開発しました。

Shimz DDE Pedex+は、動線など最適な人流計画案を選択できるエリアモジュールモデル(AMM)と、歩行者の動きをリアルに再現して見える化するマルチエージェントシステム(MAS)から構成されます。新開発のMASにより機能を拡大・高度化したことから名称に「+」を付加しました。

MASはAMMが求めた数値解析による静的な人流計画案をもとに、施設内外での利用者の移動行動を動的、かつリアルに可視化することができます。

エージェントと呼ぶ移動者ごとに、男女・大人・子供等の属性を与えて、属性別の歩行速度やパーソナルスペース、移動経路などを設定した上で、衝突回避・追従行動、密度相応の歩行速度を反映した数万人分の時刻歴の位置情報を求め、動的に群衆の動きを再現します。

下図は「退場シミュレーション」における「MASによる動的解析」、「AMMによる静的解析」を表したものです。

さらに、同時開発した専用ビューワで混雑度のヒートマップ表示や2画面表示による設計変更のBefore / After比較、同時刻の別地点比較などができるため、早期かつ合理的な合意形成に寄与します。

設計検討と人流解析を同時進行することにより、検討時間の短縮と設計品質の向上を両立し、人流を考慮した誘導員配置やサイン計画など、運営段階でも活用可能です。

新秋田県立体育館の概要

新秋田県立体育館は、老朽化が進んだ現体育館の代替施設となるもので、日本プロバスケットボールBリーグの秋田ノーザンハピネッツのホームアリーナとしても使用される計画です。

2025年3月、清水建設を代表企業とする応募グループが新県立体育館の整備・運営事業を落札し、2028年9月末の供用開始を目指して、現在、設計作業を進めています。(応募グループは下表参照)

入札に際しては「Shimz DDE Pedex+」のAMMを用いて館内の動線の最適化を図り、利用者がストレスなく入退場・館内移動でき、かつ一斉退場時に周辺の歩道に与える影響を最小限に留める人流計画を検討して提案を行い、発注者による総合評価を経て落札に至りました。

設計業務で、新開発のMASを初適用してAMMで求めた人流計画を見える化した結果、発注者や関係者との動線に関する諸協議が円滑に進み、合意形成に要する時間が大幅に短縮されます。

新秋田県立体育館は、S造で地上4階建て、建築面積9442.6㎡、延べ面積1万8170㎡という規模になります。施設概要と完成イメージパースは下に掲載の通りです。

まとめ・今後の展望

清水建設は「Shimz DDE Pedex+」の開発にあたり、開発全体のコンサル支援やシミュレーターの提供(AMM)、シミュレーターの共同開発(MAS)、施設実測・分析協力を担当する㈱ベクトル総研や、Shimz DDEツール化のためのGrasshopperコンポーネント開発、実装支援を担当する㈱アルゴリズムデザインラボと共同開発しました。

今後、「Shimz DDE Pedex+」を活用して大規模集客施設の設計提案を優位に進めるとともに、MASの計算エンジンである、㈱ベクトル総研が開発した「P-MACS」が東京消防庁の火災避難シミュレーションの評価基準に適合するとの評価を受けたことから、今後「Shimz DDE Pedex+」に、避難シミュレーション機能を開発・付加していく考えです。

新開発された「Shimz DDE Pedex+」の適用成果をまとめると、従来は基本設計を進めた後に、専門コンサルタントの調査・分析に依存して長時間を要していた人流解析が、通常使用の設計ツールにより、設計初期段階から容易に検討ができ、打合せで得られた客先ニーズに対してタイムリーに提案ができる点にあります。

大規模施設の設計において、大幅な時間・費用の短縮につながる「Shimz DDE Pedex+」は、今後も適用案件が増えていくことでしょう。

 

出典:設計の初期段階で大規模集客施設の人流を予測・見える化(清水建設プレスリリース)

 

(本記事は、総合資格naviライター kouju64が構成しました。)