建設コンサルタントが進める自動設計の現在 第3回【業界研究】
国土交通省はi-Constructionの重要施策として、2023年4月からBIM/CIMの原則化を進めてきました。これにより、BIM/CIMの社会実装が進み、2026年4月には建築確認申請で「BIM図面審査」が本格的に導入されます。設計者はBIMモデルのIFCデータとPDF、設計者チェックリストを提出し、審査が効率化されます。
BIM活用は建築設計に不可欠となり、土木分野でも2027年度以降は公共工事でBIM/CIMによる3Dモデルを契約図書とするなど、BIM/CIMの適用範囲が拡大し、義務化が進められます。
下図は国土交通省による「3次元モデルの工事契約図書化」の流れです。
2024年4月に開始した、i-Construction2.0では、2029年を目途に、主要構造物で3D設計を標準化し、以降5年以内に、その他の構造物に3D設計標準化を拡大し、2035年以降は自動設計技術の開発促進や導入を見込む、「データ連係のオートメーション化」のロードマップを明らかにしました。(下図)
国土交通省のBIM/CIM原則化に先立ち、大手建設コンサルタントは自動設計システムの開発と導入を進めてきました。本シリーズ第1回ではパシフィックコンサルタンツの「パラメトリックモデル活用による自動設計」、第2回では八千代エンジニアリングの「ジェネレーティブデザインによる自動設計」を紹介しました。
第3回の本記事では、日本工営(ID&Eホールディングス)の自動設計システムへの取り組みについて解説します。
日本工営 中央研究所はBIM/CIM定着をDXへの出発点とした
日本工営では、中央研究所内に組織されたCIM推進センターを軸として、BIM/CIMの定着を図ってきました。
CIM推進センターは2016年に発足し、各部門への業務支援や教育研修に加えて、業務改革を実現するためのシステム開発を担っています。ここでは、社内で出された業務上のアイデアを形にして、BIM/CIM活用を通して実現し、水平展開を図っています。
BIM/CIM活用は、河川、ダム、道路、橋梁、防災、砂防の分野で先行して進みましたが、やがては全分野にBIM/CIM活用を広げてきました。CIM推進センターでは、3次元モデル作成に開発の軸足を置くのではなく、モデルの中に設計条件や設計思想を取り込む「3次元設計プロセス」の構築を追求してきたのです。
CIM推進センターは、BIM/CIMを業務改革につながるシステムとして、パラメトリックモデリングや3次元モデルによる設計照査、解析、数量算出などの開発を重視して、付加価値のあるシステムを積極的に創出し、その成果を着実に社内に展開していく。このシステム開発を通して、業務の効率化・高度化や品質の向上に加え、誰もが手軽に使えるようなシステムとして仕上げることに力点を置いているのです。
自動設計導入で、ミスやコストを削減し、効果的なマネジメントを実現
日本工営では、地すべりや土砂災害など斜面防災業務の3次元化をテーマに自動設計開発に取り組んでいます。
技術開発は通常、企業ごとに競争で行われますが、防災分野では「人の命を救う」という共通目標のために、官・学・民が協力することが不可欠です。日本工営で3次元設計が急速に進んだのは、BIM/CIMの導入によって作業の効率化・高度化・省力化が一気に実現できるためです。
BIM/CIM導入では、計画、調査、設計、施工、維持管理などのプロセスを問わず、すべての関係者間で情報共有が容易になり、効率的で質が高い生産と管理のトータルシステムの構築が可能になるからです。
但し、日本工営では、この画期的なBIM/CIMモデル作成には、当初から4つの大きな課題が立ちはだかっているとしていました。(下表)
日本工営ではBIM/CIM導入と活用をさらに促進するために、これらの課題を解決する自動設計システムを開発していくことを方針としました。
2022年9月、地すべり・斜面防災分野の自動設計システムを開発完了
日本工営では前項に掲げた4つの課題への対策として、従来の手作業によるモデル作成の時間と労力を減らすため、構造物のモデリング工程をプログラム化し、設計条件や寸法・部材情報を入力するだけで、パラメトリックモデリングにより自動でモデル作成を進められる設計システムを開発しました。
2022年9月に、地すべり・斜面分野の自動設計システム開発を完了し、2022年度中に地すべり対策関連の10業務に活用を開始しました。この自動設計プログラムで、3Dモデリングから概算工事費の算出までを一括で行うことが可能となりました。
BIM/CIMと自動設計の連動が本格化すれば、ミスや手戻りの大幅な減少、単純作業の軽減、工程の短縮、施工現場の安全性向上、関係者間の意思疎通の向上、合意形成の高度化と迅速化など、飛躍的な効果が一挙に生まれます。
開発した自動設計システムでは、これまで技術者が試行・検討を繰り返しながら設計を行ってきた領域までも自動化に成功しています。入力値の整理ができていれば、各種構造物を自動で設計・モデル化し、その後の作業も一括で自動処理できるプログラムです。
プログラム処理は、ステップ1から3の工程に分かれています。
ステップ1は、パラメトリックモデルの作成です。設計図面から情報を読み込んでプログラムを実行するだけで、3Dモデルを完成させることができます。
ステップ2は、設計条件や設計思想をプログラム化したもの。各工事に定められている設計基準を網羅しているため、基準から外れた構造物がモデル化されると自動照査してエラー色が出力されるようにしました。
ステップ3は、概算工事費用の算出などを行います。
自動設計により、諸条件を満たしたモデルが完成しているので、任意の数字を拾い出すことが可能になり、設計後の作業も自動化が可能となっています。
自動設計が実現した大幅な時間短縮とそれ以外のこと
属人化を排した自動設計システムの導入により、経験豊富な設計技術者でも1時間以上掛かっていた作業が、オペレーターにより15分程度で作業完了できるようになりました。
時間とコストの大幅な圧縮を実現できたことで、数値入力によるトライアンドエラーが何度でもできるため、誰もがテストを繰り返して完成イメージを固められることや、ヒューマンエラーによるミスが激減したことも大きな導入効果となりました。
システムは自動設計だけではなく、照査でも使えるため、斜面防災のBIM/CIM業務における標準ソフトとして稼働していくことが視野に入りました。
つまり日本工営では、自動設計導入の成果を時間短縮としたのではなく、設計品質向上やベテラン技術者の経験値を標準化し、さらに応用して適用範囲を拡大していくことに向けていったのです。
BIM/CIM教育を拡充、実践しながらスキルを磨く社内体制へ
日本工営は、2022年9月から社内のBIM/CIM教育を拡充してきました。
具体的には、社内資格制度の運用開始と動画学習による教育研修の実施です。
社内資格は初級、中級、上級の3段階に設定し、2時間の動画学習を位置付けた初級から、中級では「実務で使いこなせるスキル」を養うことを目的にBIM/CIMソフト操作研修を含む40~80時間のプログラムを受講する流れです。上級資格では、BIM/CIMマネジャーの育成を目的とした準備を進め、BIM/CIMへの対応力を技術者の重要な素養の一つに位置付けて、上級クラス社員は社内研修で講師を担ったり、開発指導を担当する流れが構築されています。
日々の業務では、オートデスクの汎用CAD『AutoCAD』やBIM/CIM設計ソフト『Civil 3D』、コンセプトデザインソフト『InfraWorks』、BIMソフト『Revit』などを活用して、2016年から開始したBIM/CIM研修もオートデスク製品を軸とした教育プログラムとしており、新入社員でも経験値があると、2週間の新入社員研修をわずか1週間で終え、残り期間を使ってオートデスクのビジュアルプログラミングツール『Dynamo』を学ぶ社員もいるように、「デジタルネイティブ世代の若手社員がこれからのBIM/CIMを牽引していく」ことを期待した環境を構築しています。
2016年にCIM推進センターを発足して、間もなく10年が経過します。この間、日本工営でBIM/CIM活用は急速に広がり、自動設計システムは業務の効率化や高度化、品質向上につながるとともに、社内外で関係者同士のコミュニケーションツールとして、様々な情報共有に使われています。
まとめ
地すべり対策や斜面防災の技術は、そこに住む人たちの命を守るためにあります。
この分野のBIM/CIM標準化は災害防除工事の領域が基本とされており、すでに、UAV(ドローン)による点群データの取得は、地すべり災害になくてはならないものになっています。
万が一、地すべりや土砂災害が起こった時には、自治体や地権者との連携や各種申請、発災後調査、概算工費を見積もりした上での応急対策など、多岐にわたる作業対応が必要となります。
従来は、特に応急対策工事のイメージを関係者間で共有することは非常に難しく、これまでは何度もすり合わせが必要でした。
自動設計による3次元データの活用は、素早く情報共有でき、調査初動も格段に早めることができ、全体で工期短縮や復旧復興の迅速化に貢献できます。
また、施設設計や機構解析の分野では、豊富な経験を持つ専門技術者がこれまでの経験を踏まえて工法選定や詳細設計を実施することが多くありましたが、経験が必要な上に属人性が高く、個人技術・技能の域を出ない作業とも言えます。
この工程に3 次元モデルの自動設計を導入することで、誰もがトライアンドエラーをしながら条件を振り返り、より精度が高い仕様を決められるようになります。
日本工営では、自動設計は始まったばかりの技術で、今後も伸び代がたくさん残された領域と捉えており、システムの高度化・効率化・省力化が進むほど、人類の目標ともいえる「安心・安全・快適な生活」に近づいていけると考えているようです。
ひとつひとつの技術の積み重ねから未来を切り拓き、人と社会に貢献していくこと。
建設コンサルタントが進める自動設計の世界には、若い皆さんが活躍できるフィールドが広がっているのです。
本記事で本シリーズは一旦、終了としますが、建設コンサルタントや総合建設業などが推進している建設技術に関しては、今後も積極的に紹介していきたいと思います。
◆本記事で参考とした、日本工営(ID&Eホールディングス)のプレスリリース
◆前記事を未読で興味がある方は、ぜひこの機会にご覧ください。
建設コンサルタントが進める自動設計の現在 第1回【業界研究】
建設コンサルタントが進める自動設計の現在 第2回【業界研究】
(本記事は、総合資格naviライター kouju64が構成しました。)





